一無、二少、三多の誕生
古今東西を問わず、日常の不適切な生活習慣が及ぼす健康障害を指摘する多くの「戒め」が格言として伝えられてきました。近年、かつては贅沢病ともいわれた生活習慣病が先進国でまん延したことで、日常生活の中の生活習慣に注目し、科学的な裏付けのある健康標語が登場するようになりました。
ブレスローの7つの健康習慣
1965年、ブレスロー教授(Lester Breslow、カリフォルニア大学)は、生活習慣病予防の視点から、基本的な7つの日常生活習慣に注目しました。「ブレスローの7つの健康習慣」の意義は、9年間の疫学調査によって、より多くの健康習慣を実施している集団と、不十分な集団とでは、死亡率に数倍の差があること、また若年者ほど、健康習慣の死亡率への関与が強いことによって実証されました1。
- 喫煙をしない
- 飲酒を適度にするかまたはまったくしない
- 定期的に激しい運動をする
- 適正体重を保つ
- 7~8時間の睡眠をとる
- 毎日朝食をとる
- 不必要な間食をしない
森本の8つの健康習慣
日本では、1987年、森本兼曩教授(大阪大学大学院 公衆衛生学)が、新たな8つの健康習慣を提唱しました。森本教授は、8つの健康習慣の不良な人では循環器疾患を発病しやすく、とくにストレスが代表的な疾患発症の重要な要因になっていることを警告しました2。「森本の8つの健康習慣」は、「ブレスローの7つの健康習慣」にはないストレスを含むことで、より現代の時勢にマッチした内容となりました。
- 喫煙をしない
- 過度の飲酒をしない
- 毎日朝食を食べる
- 毎日平均7~8時間眠る
- 毎日9時間以下の労働にとどめる
- 身体運動、スポーツを定期的に行う
- 栄養バランスを考えて食事する
- 自覚的ストレス量が多くない
一無、二少、三多の6つの健康習慣
1991年、当協会名誉会長の池田 義雄は、糖尿病の患者の自己管理生活の指導法として『一無、二少、三多』を提唱しました。池田は、「正しい自己管理は、医療側の適切な指導が患者にやる気を起こさせ、ともに糖尿病と取り組むという姿勢を培うものでなければならない。『一無、二少、三多』という覚えやすい日常生活の仕方を生活指導にぜひ活用され、糖尿病を有し、かつ一病息災、あるいは二病・三病息災が可能となるようはかられることを望みたい」とその思いを語っている3。
- 一無:喫煙をしない。無煙の生活をしている
- 少食:腹八分。バランスを心がけている
- 少酒:飲める人でも飲酒は少なめにする
- 多動:身体を活発に動かす
- 多休:休息・休養・睡眠を多くとる
- 多接:多くのひと、事、物に接し、創造的な生活を心がける
和田 高士(東京慈恵会医科大学大学院健康科学科教授、当協会副理事長)は、2000~2007年までの7年間、人間ドックを受診した約9,500人(男性6,700人、女性2,800人)を対象に、ブレスロー、森本、池田(一無、二少、三多)の3つの健康習慣の実践が、メタボリックシンドロームの発症にどの程度の効果があるかを調査しました。その結果、「一無、二少、三多」の健康習慣は、実践数に比例してメタボ発症の抑制がみられ、ブレスロー、森本、池田の3種類の健康習慣の中でもっとも抑制効果が強いことを報告しています4,5。
「一無、二少、三多」は、古よりの知恵と科学的な事実を組み合わせ、わかりやすく、より実践的な健康標語として誕生しました。とくに、健康のもつ社会性に着目した「多接」は、健康長寿に欠かせない認知症の予防、現代社会では誰もが陥りやすい「孤立・孤独」を避けるための生き方をも提言するものであり、当協会の健康標語の特長でもあります。
参考文献
- Belloc NB,Breslow L: Relationship of physical health status and health practices. Prev Med 1972;1:409-421
- 森本兼曩:ストレス危機の予防医学. 日本本放送出版協会,東京,1997
- 池田義雄:自己管理. 別冊プラクテイス. pp119-128. 医歯薬出版,東京,1991
- Wada T, et al. Effective prevention of metabolic syndrome: A motto for healthy habits-"none of one, less of two, more of three". Obes Res Clin Pract. 2007 1(2):I-II. doi: 10.1016/j.orcp.2007.03.002.
- Wada T, et al:Of the Three Classifications of Healthy Lifestyle Habits, Which One is the Most Closely Associated with the Prevention of Metabolic Syndrome in Japanese? Intern Med 2009;48:647-655
2023年08月 更新