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こころの密を育てる、ほかー全国生活習慣病予防月間2022市民公開講演会 公開中!

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 全国生活習慣病予防月間2022は、当協会の健康スローガン『一無、二少、三多』より、「多接:多くの人・こと・ものとつながる」をテーマに市民公開講演会をWeb講演会として開催致しました。
 「こころの密を育てる~スマートフォンによるAIセルフカウンセリング~」とトークショー、ならびに「トピックス講演」は引き続き継続公開中です。

全国生活習慣病予防月間2022市民公開講演会

こころの密を育てる
~スマートフォンによるAIセルフカウンセリング~

2022_Oono.jpg大野 裕 先生
精神科医、一般社団法人 認知行動療法研修開発センター 理事長、他

 コロナ禍で人々の三大ネガティブ感情、「不安」「うつ」「怒り」が高まっていると言われる。また、コロナ以前から、非健康的な生活習慣、例えば運動不足や朝食の欠食などによって、うつのリスクが高い状態にある人が増加している。これらの課題の解決策として期待されている認知行動変容アプローチと、そこから誕生したAIチャットボットによる「こころコンディショナー」について、認知行動療法の第一人者である大野先生が解説する。

Part 1 ウェルビーイングを高める認知行動変容アプローチ(1)
ネガティブ感情を切替える

 そもそも人は危険回避のため、環境の変化に対して本能的にネガティブに判断する傾向があるという。危険回避のためにまずは良くない事態を想定し、その後に「何が起きてるのか」と情報収集して、危険かそうでないかを判断するのだという。情報収集の結果、危険でないと判断されれば、ネガティブな思考がポジティブに切り替わる。ところが何らかの理由でネガティブになったままの状態が続くことがある。このような状態に対して、情報収集を手助けすることで適切な判断を促す手法が「認知行動療法」であるとのことだ。 Ono01.PNG

Part 2 ウェルビーイングを高める認知行動変容アプローチ(2)
4大感情と認知・行動

 人の感情は4つに分類できるという。そのうちの1つは「喜び」というポジティブな感情だが、残りの3つは「不安」「うつ」「怒り」というネガティブな感情である。
 これらのうち例えば不安とは、身に迫る危険を実際より過大評価するとともに、自分の能力や、期待できる周囲からの助力を過小評価した結果として生じるのだそうだ。このような誤認に基づき不安が募ると過剰な回避行動が繰り返されて、状況は好転しない。いわゆる破滅的思考に入り込んでしまう。
 そのような破滅的思考の是正には、多少の危険を認識したうえで実際にトライしてみること「エクスポージャー」も時には必要とされる。危険度をできるだけ正確に評価して、「正しく恐れる」ということだ。情報を正しく分析することで危険性の過大評価、自分の力の過小評価の誤りに気付ければ、回復のチャンスが到来する。その時、周囲に助けを求めることを躊躇すべきでない。
 現在、世界はコロナ禍のためネガティブな感情に支配されやすい傾向がある。しかし、「パンデミックは永遠に続くわけではなく、必ず終わる。脳の報酬系を刺激する楽しいことを生活に採り入れ、期待と現実のギャップを埋める解決策を考えてほしい」と大野先生はメッセージを送る。 Ono02.PNG

Part 3 こころを元気にする4つのステップとAIチャットボット

 Part3では、大野先生が始めたICTを活用しセルフケアで認知行動変容を促す、スマホアプリ「こころコンディショナー」の試みが紹介される。AIチャットボットにより、うつや不安、怒りの解決の糸口を教えてくれる仕組みだ。デジタルツールであるため、時間や場所を問わず利用できること、そして人に会わずに済むため、相談をするという行動の第一歩のハードルを大きく下げられるというメリットがある。
 「こころコンディショナー」は、すでに世田谷区などの自治体等での活用も始まっているという。これまでに約1万5,000人が利用し、ユーザーアンケートの結果、82.5%が「継続的に利用したい」と回答するほどの高評価を得ているとのことだ。また、このアプリ使用に伴う有害事象は観察されていない。
 しかし、当然ながらチャットボットがすべてを解決してくれるわけではない。また、現時点のテクノロジーでは、文脈に沿った的確なアドバイスはまだ難しく、人と話している感覚とは隔たりがある。さらに、中には緊急性があって高度な介入が必要と判断されるケースもあったり、ユーザーから「アプリを使っていたら、実際に人と話してみたくなった」との声も上がってくるという。「こころコンディショナー」ではそのようなニーズに対して、face-to-faceの遠隔相談機能で応じている。 Ono03.png

コロナ禍をきっかけに自分を見つめ直し、自分らしく生きていく!【トークショー】

2022_Umihara.jpg 司会 海原 純子 先生
心療内科医・産業医、日本医科大学 特任教授、ジャズ歌手、エッセイスト
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 コロナ禍でのストレスが怒りの感情となって、職場や家庭の人間関係に影響し、悩みをかかえている方が多い。人間関係の距離の取り方が難しくなり、家庭では距離が短く、会社では距離は離れて、今までは見なくてよかったものが見えてくる。その距離感をいかにコントロールしていくのか?大野先生と海原先生は、自分をほめれるようになることの大切さについて語り、そして、コロナ禍をきっかけに自分を見つめ直し、自分らしく生きていくことを提案する。
〔Special Talkの話題〕コロナ禍でうっ憤が溜っている方が増えている・・/怒りとらわれたとき、どうすれば抜け出せる・・/意外と若い方に悩みが多い・・/デジタルツールを上手に活用するには・・/朝の行動習慣は役に立ちそうですね・・/最近アルコールの量が増えたという方が多い・・/自分の嫌なことをしっかり見て、解決する姿勢が・・/こころコンディショナーを効果的に使うには・・/心を整えるスキルはどのように・・/結果が重視され、自己肯定感が低下する・・

認知機能低下を防止する生活習慣がわかってきた!

2022_Kawamori.jpg 河盛 隆造 先生
順天堂大学名誉教授、同 大学院スポートロジーセンター センター長

 河盛先生は糖尿病学のエキスパートであるが、それだけでなく、スポーツを「健康にいかに役立てるか」という視点で研究する「スポートロジー」という新たな学問領域を推進されている。その背景には、患者さんにスポーツや身体活動を推奨するものの、その科学的エビデンスの少なさに対する積年の疑問があったとのことだ。そして現在、スポートロジーの主要なターゲットは「認知機能の低下」にあるという。

Part1 スポートロジー研究が明らかにする現代人の生活習慣

 スポートロジーからはこれまでに、医学の専門的な範囲にとどまらず、社会的にも大きなインパクトのある研究成果が発信されてきている。例えば、河盛先生らが報告した、非肥満者のメタボリックシンドロームや、若年者のサルコペニアやフレイルの存在の報告などはその一部だ。
 非肥満者のメタボリックシンドローム、つまり「やせメタボ」は、肥満メタボの人に多くみられる過食という習慣は少ないものの、運動不足のために筋肉量や筋力が低下しており、筋肉でのインスリン抵抗性が亢進している。やせているのにもかかわらず、肥満メタボと同様に複数の代謝異常を来しやすい。
 また、サルコペニアやフレイルの進展には加齢の影響が大きく、それら両者は高齢者の健康障害と考えられがちだが、日本では必ずしもそうとは言えないという。健診では異常なしと判定される20代の女性を精査した結果、骨量低下が約4割にみられ、1割は骨粗鬆症に該当し、さらに全員がビタミンD低値だった。それらの人たちは「運動をしない」という共通の課題を抱えている。 Kawamori01.PNG

Part2 認知症の予防に、我々ができることをする。それは何か?

 現代日本が抱える喫緊の課題である「認知症の予防」にも、スポートロジーへの期待が寄せられている。
 順天堂大学のある文京区に居住する65歳以上の高齢者1,600人以上を対象に、同大学が主体となって行っている疫学研究「Bunkyo Health Study」では、認知症の有病率は、非肥満/非サルコペニアでは1.6%なのに対して、肥満では2.6%、サルコペニアではなんと7.6%であることが明らかになった。さらに問題は、肥満でありながら筋肉量が少ない状態、つまり「サルコペニア肥満」では、認知症有病率が実に14.5%に上る。さらに運動習慣のある高齢者はその習慣のない高齢者に比べて認知機能が保たれていること、ロコモティブシンドロームと認知機能が相関することなどが明らかになり、認知機能低下抑制における運動の重要性が示された。また症候性脳梗塞のハイリスク状態であり、認知症リスクとの関連性も示唆されている無症候性ラクナ梗塞の有病率が、筋力の低下と関連しているという事実もわかった。
 現在までに明らかになっている認知症のリスク因子は40%に過ぎず、60%は不明と考えられている。しかし、既に明らかにされた事実も少なくない。例えば、メタボリックシンドロームや糖尿病、高血圧への対策は、認知症予防の効果ももたらす。今、出来ることから始める。すなわち、適正な食事を心がける、身体活動量を増やすといった生活習慣の改善が重要であることの重要性を河盛先生は指摘する。 kawamori02.PNG

新型コロナウイルスと喫煙・受動喫煙ーいま求められる喫煙対策ー!

2022_Muramats.jpg 村松 弘康 先生
中央内科クリニック 院長、東京都医師会タバコ対策委員会アドバイザー

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは3年目に突入し、なお新たな変異株の出現を繰り返しており、依然として終息を見通せる状況でない。これまでに蓄積された多くのエビデンスから、喫煙がCOVID-19の罹患リスクと重症化リスクに関与することは、ほぼ確実と言える。本公演では、呼吸器専門医で東京都医師会たばこ対策委員会アドバイザーである村松先生により、喫煙とCOVID-19との関連についての最新情報がオーバービューされた。
 COVID-19のパンデミック初期に中国から、喫煙者のほうがCOVID-19罹患リスクが低いというデータが報告された。しかしその後、論文著者の一部がタバコ業界と関連があり、それを開示していなかったこと(COI開示違反)が明らかになって、論文は撤回された。また、研究手法そのものにも問題が指摘された。
 喫煙者のCOVID-19リスクがなぜ高いのかという疑問は、COVID-19の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)が、アンジオテンシン変換酵素II(ACE2)受容体を足場として細胞内に侵入することで説明がつくと村松先生は解説する。喫煙によりACE2が用量依存的に増加するとのことだ。また、ごく単純なことだが、現在、公共の場の喫煙は禁止されているため、喫煙者は限られた喫煙スペースでタバコを吸う。そこは密閉、密集、密接という「三密」の代表のような場所であり、感染リスクは極めて高い。
 では、禁煙した場合はどうだろうか? 実は、COVID-19罹患時の重症化リスクは、現喫煙者は1.98倍であるのに対して、前喫煙者(禁煙者)は3.46倍に上ると報告されている。逆ではないかと思われるかもしれないが、これは、禁煙した人は過去の喫煙期間が長い人が多く、それまでに蓄積された呼吸器へのダメージが解消しきれていないために、このような結果になるという。
 最近では、紙巻タバコだけでなく電子タバコでもCOVID-19リスクが上昇すること、喫煙者はワクチン接種後の抗体産生量が少ないことなども、明らかになってきている。また、肥満者がCOVID-19ハイリスクであることに関しては、パンデミックの初期から指摘されてきた。村松先生は「コロナ禍の今こそ、一無、二少、三多を実践すべきだ」と、講演をまとめている。 Muramatsu01.png

<全国生活習慣病予防月間2022概要>

■共催
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
NPO法人 セルフメディケーション推進協議会

■協賛
株式会社タニタリボン食品株式会社株式会社明治サラヤ株式会社松谷化学工業株式会社

■後援
厚生労働省、公益財団法人 健康・体力づくり事業財団、健康日本21推進全国連絡協議会、公益財団法人 8020推進財団、公益財団法人 循環器病研究振興財団、公益社団法人 アルコール健康医学協会、公益財団法人 日本糖尿病財団、一般社団法人 動脈硬化予防啓発センター、一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会、一般社団法人 日本肥満学会、一般社団法人 日本肥満症予防協会、一般社団法人 日本くすり教育研究所、一般社団法人 日本産業保健師会、日本保健師活動研究会、特定非営利活動法人 日本人間ドック健診協会、日本健康運動研究所

■生活習慣病予防 お役立ちツール
 スローガンの川柳を使用したポスター、リーフレットは当協会サイト「生活習慣病予防 お役立ちツール」で自由にダウンロード可能です。ぜひご活用ください。

2023年07月 公開

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