3. 高血圧とメタボリックシンドローム
血圧は低くコントロールするほど良い
「塩分を摂り過ぎると血圧が高くなる」ということは、みなさん、よくご存じですね。高血圧という病気は、日本人にとって、とても馴染みが深い病気です。
国内の患者数は、3,000万人とも4,000万人とも言われています。しかも高齢になるにつれて、その割合が高くなります。
このため、かつては「年とともに血圧が高くなってくるのは仕方がない。血圧を下げ過ぎると、心臓や脳の血流が不足するのでよくない」と考えられていたこともありました。しかし、これまでに世界各地で行われてきた医学的調査研究の結果から、確かに高齢者の高血圧は時間をかけて少しずつ下げる必要があるものの、血圧を正常値近くに保ち続けるほど末長く健康でいられる――心臓病や脳卒中などになりにくい――ということが証明されました。
ことに、メタボリックシンドロームのような、心臓病や脳卒中の危険性が高い状態にある場合、血圧のコントロールがより重要になります。
高血圧は、血管の壁に強い負担がかかっている状態
ここで、高血圧がどんな病気かを簡単に説明します。
高血圧とは、血管の中を血液が流れる際に、血管の壁に強い圧力がかかっている状態です。
血管は、たとえて言うならゴムホースのようなものです。新品の柔らかいゴムホースは、中を大量の水が通るときに内径が少し広がって、スムーズに水が通ります。しかし年数を経ると、ゴムが固くなって、所々ひびが入ってきたりしますね。ホースの内側には、水垢などのゴミも溜まってきます。
血管も同じです。若いときのしなやかさが年とともに徐々に失われて、内部にはコレステロールなどが溜まって、動脈硬化をきたし血管内径が狭くなります。そして、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの病気を引き起こします。
高血圧が血管の老化現象を速める
高血圧の状態では、血管に絶えず強い負担がかかっていますから、血管が硬くなり血管壁の老化現象を速めてしまいます。強すぎる血圧が血管壁を傷をつけます。その傷が治ったあとに、また再び血圧で傷つけられるということの繰り返しで、血管壁に細胞レベルの異常が生じて、動脈硬化が進みます。
このようにして動脈硬化が進むと、血管内径が狭くなります。すると、同じ量の水を、通常よりも狭い管に流そうとするのと一緒で、当然、血管の壁にかかる圧力はより高くなる、つまり、血圧がさらに高くなってしまいます。
原因は、血液の量が多くなることと、血管が収縮すること
血圧が高くなる直接的な原因は、二つあります。ゴムホースの先端から、水が勢いよく飛び出すのはどんなときかを考えみてください。
一つは蛇口をいっぱいにひねったときですね。中を流れる水の量が増えれば、当然、水は勢いよく飛び出します。このとき、ホースの内部には、高い圧力がかかっています。ヒトの体で言えば、血液の量が多過ぎる状態に相当します。
もう一つは、ゴムホースの先端を摘んだときですね。先端を摘むと、蛇口をひねらなくても、遠くまで水が飛んでいきます。これはヒトの体では、血管が収縮している状態に相当します。
血液の量が増えたり、血管が収縮する(拡張しにくい)ために、血管壁に強い圧力がかかっている状態が、高血圧です。
おおもとの原因は、塩分過多や肥満、とくに…
では、なぜ、血液の量が増えたり、血管が収縮したりするのでしょうか。それには、冒頭に述べましたように、みなさんがよくご存じの、塩分の摂り過ぎがまず挙げられます。
塩分を摂ると、血液中の塩分(ナトリウム)濃度が高くなります。するとヒトの体は、血液のナトリウム濃度を一定の範囲内に保つ必要性から、体内の水分が血液中に移行します。その結果、血液の量が増え、血圧が高くなります。
塩分過多と並ぶ重要な因子は、肥満、とくに、内臓脂肪型肥満です。
内臓脂肪が過剰に溜まると、アディポサイトカイン(脂肪細胞が分泌する生理活性物質)の分泌異常が起きて、インスリンの働きが弱くなります。すると、弱くなったインスリンの働きを補うために、膵臓からインスリンが大量に分泌される「高インスリン血症」という状態になります。
インスリンは血糖値を下げるホルモンとして知られていますが、ほかにもいろいろんな働きをもっています。例えば、腎臓からナトリウムが排泄されるのを妨げるように作用して、血液中のナトリウム濃度を高くし、血圧を上げます。また、交感神経(体の諸機能を活発にするように働く神経)の働きを高めるので、心臓の収縮力が強くなったり、血管が収縮したり(拡張しにくくなったり)して、血圧が上がります。さらに、血管壁の細胞を増殖をさせることにより、血管内径が狭くなり、血圧上昇、動脈硬化の進行が速くなります。
血管の収縮には交感神経の働きが特に重要であり、ストレスの多い状態では交感神経の働きが強くなり、心臓や血管が強く収縮して高血圧を生じてきます。
*高血圧の原因を考える時、一つは食塩摂取過多や肥満が関係したナトリウム水分貯留による機序、もう一つは主として交感神経活性の亢進―ストレスなどが考えられています。肥満は水分貯留と交感神経の両方に関係します。
メタボリックシンドロームなら、より厳格に血圧コントロールを
今、説明しましたような、過剰に溜まった内臓脂肪が原因で起こる高血圧のような生活習慣病が、複数重複している状態が「メタボリックシンドローム」です。その診断基準には、血圧のほかに、血清脂質、血糖値の検査値が含まれています。
これらの異常が重なると、たとえ個々の異常の程度は軽くても、動脈硬化が速く進行し、心臓病や脳卒中が起きやすくなります。ですから、高血圧でかつメタボリックシンドロームに該当する場合、高血圧自体は軽症の患者さんも、決して軽視はできません。
また、メタボリックシンドロームの診断基準に含まれている検査値の中で、異常値を示す人の割合が最も高いのが、高血圧です。メタボリックシンドロームに該当するすべての人にとって、血圧のチェックとコントロールは、欠かせない大切なことだと言えます。
ストレスや内臓脂肪型肥満の解消と減塩が、最初の治療
血圧コントロールの具体的な方法は、まず、ストレスや肥満の解消、とくに内臓脂肪を減らすこと、そして減塩です。そのようにライフスタイルを改善しても血圧が治療目標まで下がらない場合は、薬を使って血圧をコントロールします。
次回は、『高血圧とメタボリックシンドローム』のポイントをQ&A形式で解説します。
2006年09月 公開
※記事内容、肩書、所属等は公開当時のものです。ご留意ください。