2024年10月08日
10月8日は、糖をはかる日です。 健康診断の機会を逃さず、生活習慣病を予防しましょう。
キーワード: 生活習慣 高血圧 脂質異常症(高脂血症) 一無・二少・三多 糖尿病 肥満症/メタボリックシンドローム 健診・保健指導 全国生活習慣病予防月間 協会・賛助会員関連ニュース 厚生労働省の調査 生活習慣病の医療費
血糖値は、私たちの生命活動に必須な糖質(ブドウ糖)の血中濃度です。糖質は食事として摂取され、インスリンの働きによって全身の臓器や筋肉に供給されてエネルギーとして使用されるため、血糖値はつねにアップ・ダウンを繰り返しながら変化してます。しかし、インスリンの働きや糖の供給機能が衰えると、長時間血液中に糖が高濃度で漂うため、体調の変化や様々な病気が起こりやすくなります。
血糖値の変化は健康のバロメータでもありますので、体温や脈拍・血圧のように簡単にはかることができれば、健康管理に役立ちますが、現在のところ、糖尿病の治療を受けている場合を除き、血液中の糖分(血糖値、HbA1c)をはかる機会は健康診断(健診)以外には少ないのが実際です。
ところが、令和4年の健診の受診状況(20歳以上)をみると、全体で約3割(男性26.1%、女性33.3%)の方は健診を受けていません(図9)。生活習慣病の早期発見・予防を目的とした特定健診(40~74歳)の同年の受診率は58.1%(図10)にすぎません。
10月8日は「糖をはかる日」をきっかけに、最近健診を受けていない人は、現在の健康状態や生活習慣を見直す機会として、少なくとも年1回の健診はぜひ受診しましょう。
日本生活習慣病予防協会
あなたは糖尿病予備群?
本年8月に公開された、「平成4年(2022)度国民健康・栄養調査(厚生労働省)」では、「糖尿病が強く疑われる者の割合は男性18.1%、女性9.1%、この10年間でみると、男女とも有意な増減はみられない」と報告されています。すなわち、糖をはかる日が制定された2016年度の「国民健康・栄養調査」で示された「我が国の糖尿病有病者1,000万人、糖尿病が強く疑われる方(糖尿病予備群)1,000万人、合計約2,000万人」の傾向は現在に至るまで続いていることを示しています(図1)。
令和4年(2022)国民健康・栄養調査での「糖尿病が疑われる者の割合」は、男性1.6ポイント、女性1.7ポイント低下していますが、2016年よりはまだ割合が高くなっています(図2)。継続して低下傾向が続くのか、今後の調査結果が期待されます。年齢別でみると、男性で、とくに40歳ごろから徐々に割合が高くなる傾向を示しています(図3)。
また、同調査の肥満の状況では、男性の20歳以上の肥満者(BMI≧25 kg/m2)の割合は31.7%であり、直近10年間で有意に増加していると報告されています(図4)。
年齢別の肥満者の割合をみると、男性では20歳以上の全年齢層で長期的な肥満の割合が高くなっており、とくに40歳から50代で最も高くなっています(図5)。
肥満、とくに内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)は様々な生活習慣病の最大のリスクとなります。もし20歳時より体重が10kg以上増加している場合、その増加分はほとんど余剰な内臓脂肪です。余剰な脂肪細胞からは悪玉の生理活性物質が分泌され、血圧上昇、糖尿病や脂質異常などを引き起こします。上記の結果は、男性の多くが20歳ごろからの肥満が内臓脂肪肥満として蓄積し、40歳からの特定健診により、「糖尿病が強く疑われる者」として血糖値に反映されている状況を表しているのかもしれません。
一方、女性では20歳以上の全年齢で肥満よりやせの傾向が指摘されており(図6)、とくに、20歳代の女性のやせの割合が先進国のなかでは最も高いことが懸念されています。最近の研究では、食事量が少なく、運動量も少ない若年女性や閉経後の女性では耐糖能異常の割合が高く、糖尿病のリスクが高くなることが報告されています。
「メタボリックシンドローム/肥満」(日本生活習慣病予防協会)
「日本の女性のやせ過ぎ問題とその栄養対策」(日本生活習慣病予防協会)
生活習慣病は国民医療費の約3割、死亡者数の約5割に関連
糖尿病をはじめとした生活習慣病は、国民医療費(一般診療医療費、歯科と薬局分の医療費を除外した費用)の約3割、死亡者数の約5割に関連しています(図7)。
生活習慣病は高齢になるほど増加するため、このまま医療費が上昇すると、少子高齢化のわが国では、医療費の自己負担分の増加ばかりでなく、国民が十分な医療を受けられなくなる可能性もあります。さらに、生活習慣病は要介護などのリスクでもあるため、医療費だけでなく様々な社会保障費に影響を及ぼします。
なお、死因別死亡率は、死亡診断書に記載された死因の割合です。死亡診断書には直接死因に影響を及ぼした生活習慣病があっても死因としては記入されない場合も多く、例えば糖尿病で亡くなる方の死因の第1位は悪性新生物、第2位は感染症、第3位は血管疾患(脳・心血管疾患)となっています*。
ただし、死因として死亡診断書に記載された糖尿病と高血圧症の死亡率の年次推移をみてみると、死亡率の増加傾向が示されています(図8)
*「アンケート調査による日本人糖尿病の死因」糖尿病, 2024.67(2)106-128
健康診断受診率(20歳以上)は62.9%
「令和4(2022)年国民生活基礎調査の概要」(厚生労働省)によると、20歳以上の国民で、市区町村、職場、学校、人間ドック、その他で健診を受けた人は62.9%(男性73.1%、女性65.7%)、健診を受けていない人が29.9%(男性26.1%、女性33.3%)という結果でした(図9)。
国民生活基礎調査は、保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項を調査し、厚生労働行政の企画及び立案に必要な基礎資料を得ることを目的とした調査で、1986(昭和61)年から3年ごとに大規模な調査を実施されており、2022(令和4)年は、13回目の大規模調査となります。本調査結果は次項の特定健診(40~74歳)を含めた国民の健診受診の状況を示しています。
特定健診受診率(40~74歳)は58.1%
特定健診は、40~74歳の被用者保険(健康保険組合や全国健康保険協会など)や国民健康保険の加入者を対象として実施されており、メタボリックシンドロームに着目した健診のため、メタボ健診とも言われています。特定健診の結果によって、生活習慣病リスクの高い人(メタボリックシンドローム該当者)には、専門スタッフ(保健師、管理栄養士など)による食生活や身体活動などの生活習慣を見直すための特定保健指導が行われます。
令和4(2022)年度の特定健診の対象者数は約5,192万人、受診者数は約3,017万人であり、特定健康診査の実施率は58.1%で、特定健診開始以降で最も高い実施率となっています(図10)。
しかし、年齢別でみると、最も生活習慣病が出現しやすい年代にもかかわらず、45~64歳までの働き世代で、積極的に支援を行うべき世代の男性の約3割は健診を受けていないことを示しています。
特定保健指導の対象者は、特定健診受診者の16.9%(約509万人、メタボリックシンドローム該当者とほぼ同じ)。実施率(特定健診修了者)は26.5%(約135万人)で年々上昇していますが、特定保健指導を指摘されても、指導を受けていない人が73.5%(約374万人)いることがわかります。
実際、健診で高血糖を指摘され、糖尿病と確定されるのが嫌で二次検査を受けない方も多くいるといわれます。特定保健指導などで不適切な生活習慣を改めない限り、高血糖や肥満はそのままになってしまい、結局病気は放置されたままになるのです。糖尿病をはじめとした生活習慣病はほとんど自覚症状が現れずに進行し、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患の発症など、取り返しがつかないことになってしまうことが少なくありません。
健診で再検査、要精査や保健指導の通知が来たら放置しないようにしましょう。再検査や特定保健指導を受けなければ病気の発見のチャンスを逃してしまうことになります。
なお、特定健診受診者の30.7%、メタボリックシンドローム該当者・予備群の53.8%の人は、高血圧症・糖尿病・脂質異常症のいづれか1種類以上を服薬していると報告(令和4年(2022)特定健康診査・特定保健指導の実施状況)されており、かかりつけ医療機関より生活習慣改善の指導を受けている人も多いと思われます。
※特定保健指導の基準、メタボリックシンドロームの判定基準を本記事末尾に掲載しています。
健診以外で糖をはかる
最近では、様々な機能を備えた腕時計型のスマートウォッチが販売され、中には非侵襲(採血しない)血糖値モニターも登場しています。ただし、現在市販されている血糖値が測定可能とされているスマートウォッチは、血糖測定器ではありません。日本糖尿病学会は、「2024年4月現在、指先穿刺や皮下センサー留置のための皮膚穿刺をすることなく、血糖値を測定できる医療機器はありません」と警鐘しています。
血糖測定器としての非侵襲モニターの開発はかなり難しいとされていますが、現在、開発が進められており、精度も少しずつ向上しているようですので、将来の新装置の開発に期待したいものです。
また最近では、血液検査キットを購入して採血して送る市販のサービスも多数あります。ほかにも、薬剤師のアドバイスを受けて短時間(測定の説明から結果の説明まで20~30分)で血液検査が受けられる検体測定室(ゆびさきセルフ測定室)を設置している調剤薬局も増えています。
ただし、健診の機会を逃さず利用することが、費用的にも、また生活習慣改善指導まで考慮すると最適であると言えます。
ゆびさきセルフって何?健診の前に「生活習慣病のリスクをチェック」の活用も!
日本生活習慣病予防協会では、生活習慣病のリスクとなる生活習慣をチェックする「生活習慣病のリスクをチェック!」を公開しています。
生活習慣、食事、運動について、現在の生活習慣が健康的か否かを自己チェックしていただき、チェックの数によって生活習慣病のリスクを簡易的に評価するものです。それぞれの生活習慣がなぜ不適切かの説明も示しています。
健診では実際の検査値で生活習慣病のリスクが評価されますが、健診の前後に「生活習慣病のリスクをチェック!」を使ってチェックしてみると、健診で指摘を受けた検査結果と自分の生活習慣との関係が理解しやすくなります。また、健診で指摘された改善点を具体的に実践するヒントにもなります。
「生活習慣病のリスクをチェック!」は自由にダウンロードしてご利用いただけます。
一無、二少、三多の健康生活で生活習慣病を予防
健診は自身の健康状態や生活習慣を検証し見直す機会でもありますが、健診を受けない人は、自身の健康状態に不安がある、あるいは生活習慣が適正でないことを認識しているのかもしれません。
当協会が推奨する健康習慣「一無、二少、三多」〔一無:無煙・禁煙、二少:少食、少酒、三多:多動、多休、多接〕は、不健康な生活習慣をいかに改善していくかをわかりやすく、シンプルに表現した標語です。
- 一無(無煙・禁煙):たばこは万病のもと!
新型タバコでも喫煙者や受動喫煙の健康リスクは変わりません。 - 少食:食事は腹八分を心がけ、よく噛んでゆっくり食べましょう。
- 少酒:お酒は少量をたしなみほどほどに!。自身の適量を知りましょう。
- 多動:今より10分多くからだを動かそう!。まずはよく歩くことから。
- 多休:睡眠と休養をしっかりとる!自身の適正な睡眠時間を知ること。仕事の合間の「休憩」や仕事をしない「休日・休暇」などメリハリをつけて、心身をリフレッシュをはかること。
- 多接:多くの人、さまざまな事、物に好奇心をもって接する!
社会や人とのつながりが途絶えると身体的・精神的な健康障害が起こりやすくなります。
無理な目標を立てずに、まずはシンプルに「一無、二少、三多」を意識した生活習慣に送りましょう。
一無、二少、三多とは?
関連資料
- 平成28年(2016)国民健康・栄養調査の結果(厚生労働省)
- 令和4年(2022)国民健康・栄養調査の結果(厚生労働省)
- 令和3年(2021)国民医療費の概況(厚生労働省)
- 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概要(厚生労働省)
- 令和4年(2022)国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)
- 令和4年(2022)特定健康診査・特定保健指導の実施状況(厚生労働省)
参考資料
特定保健指導の基準、メタボリックシンドロームの判定基準