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第2回予防月間講演会・質疑応答のまとめ:
アルコール指導に関するQ&A

医療機関受診者や保健指導対象者に対するアルコール指導は、医療・保健指導スタッフにとって大変興味深く、同時に大変難しいテーマでもあります。ここでは、平成24年2月3日に内幸町ホールで開催された、第2回全国生活習慣病予防月間講演会「アルコールと健康生活〜大量飲酒の怖さと少酒を目指す指導の実際」での質疑応答をまとめました。
  • 質問者:参加した医療・保健指導機関にお勤めの看護師さん、保健師さんなど
  • 座 長:池田義雄 先生(日本生活習慣病予防協会理事長/タニタ体重科学研究所所長)
  • 回答者:樋口 進 先生(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長)
    • 猿田享男 先生(日本生活習慣病予防協会理事/慶應義塾大学名誉教授)
    • 和田高士 先生(日本生活習慣病予防協会理事/東京慈恵会医科大学総合健診・予防医学センター教授)

    • 樋口 進 先生

    • 猿田亨男 先生

    • 和田高士 先生

    • 池田義雄 先生
質問1: 高血圧予防と少酒について指導する際、1合と2合を比べた場合、1合の方が血圧は上がらないというエビデンス等があれば教えてください。
猿田先生
猿田先生:
まず、「まったく飲まない人」、「飲んでいたけど止めた人」の違いがあります。「飲んでいた人」は、止めると交感神経の関与でストレスが増え、禁酒を続けると逆に血圧が上がることがあります。そのような人に関しては、飲んだ方が血圧にはいいだろうと言われています。目安としては、ビール中瓶1本、日本酒1合くらい。このことは、大きな疫学調査で滋賀大学の上島先生や国立循環器病研究センターの統計などで明らかになっています。統計では、ビール大瓶2本程度の量で、血圧が明らかに上昇したという結果もあります。血圧上昇は、心臓病、脳卒中、さらに脳の血管障害は認知症にも関係してきます。
池田先生
池田先生:
たばこは明らかに吸わないほうが良いわけですが、アルコールでは、飲む・飲まないのリスクはJカーブ※になるそうですね。
猿田先生
猿田先生:
アルコールについては、飲酒によるリスクは、きれいなJカーブになります。とくに日本人に多い脳卒中、脳梗塞でみると、脳梗塞はきれいなJカーブになることがわかっています。

※Jカーブとは,横軸に飲酒量,縦軸に病気の発症のグラフを描いたとき,その関係がJ,すなわち,無しではやや多く,少量が文字の低位、つまりもっとも少なく,一定以上を超えた飲酒量では病気発症と比例することをいいます。
質問2:欧米などの多量飲酒者・アルコール依存症はガリガリに痩せていて、食事をせず終日アルコールばかりを飲んでいるという印象があります。日本では、ガリガリの方ばかりではない印象がありますが、欧米と日本のアルコール依存症の人の体型の違いなどは実際のところどうでしょうか?
樋口先生
樋口先生:
日本でも、アルコール依存症の人は痩せている人が多いです。連続飲酒の人は、ほとんど何も食べずお酒ばかりを飲んでおり、下痢もひどく体重も下がります。一般的に体重とアルコール消費量の関係は、どこまでを多量飲酒とするかは別にして、飲酒量が少ない状況だと、体重とアルコール消費量とは比例関係にあり、飲んでる方が太っています。しかし、ある一定のレベルから上になると、その関係は必ずしもそうではなくなります。飲む量のレベルによって体型との関係が決まってきます。
質問3:最近、ノンアルコールビールなどが出ていますが、専門のお立場からどのようにお考えですか?
樋口先生
樋口先生:
依存症の人の場合は、飲まないようにすすめています。ビールテイストの飲み物を飲むと再び飲酒に戻る可能性があるため、私の病院内では、ノンアルコールであっても禁止にしています。ノンアルコールビールには2通りあり、昔からのものはビールを作ったあとにアルコールを飛ばすという製法なので、1度までいかない程度であってもアルコールが含まれています。最近出てきているものは、原料を混ぜビールと同じような味にしているため、アルコールは含まれていません。多量飲酒の人が、ノンアルコールビールを使って、アルコールの量を減らすという方法は、一つの方法としてあってもよいものと考えています。
質問4:営業など、仕事で飲まなくてはならない人に対する指導に困っています。目に見える症状が出ないため、リスクの認識が低い人が多いのが現状です。γ-GTPなど検査数値から、将来的な肝機能障害のリスクの説明をしたいのですが、どのようにしたらよいでしょうか。
猿田先生
猿田先生:
肝機能の検査数値は、個人差が大きくあるため、飲酒量の目安としてはっきりと言えるものはありません。
和田先生
和田先生:
検査値の一つのバロメーターとして、赤血球のMCVが非常に高くなることは言えると思います。
樋口先生
樋口先生:
γ-GTPの数値は、フォローアップの指標として使う方法があります。お酒が減れば、数値も減るので、誉める指標として活用するとよいでしょう。検査値でアルコールの影響をみるには、MCVでも把握できることがわかっています。お酒を飲んで顔が赤くなる人とそうでない人で違いがありますが、顔の赤くなる人はMCVが高い傾向にあります。
営業マンについては、本当に飲まなくてはならないのかを確かめる必要があります。もしかして、仕事でお酒を飲む口実・隠れみのにしている可能性もあります。飲む理由はどちらでもよいですが、お酒を減らす提案や数値を見ながらフォローアップするなど、介入していくことは必要です。フォローアップの中で、誉めておだてながら、本人をその気にさせ、数値として表れてくれば、さらなる喜びにつながります。
池田先生
池田先生:
飲酒量を減らす指導は、肥満の減量指導と重なることが多く、テクニックが似ていますね。特定保健指導でメタボの人を対象にした場合の、減食や運動療法そして禁煙のすすめに際しても活用できることでしょう。相手を誉めるということは大事なことです。ですが、指導者側がしっかりしないと対象者にいいとこ取りをされてしまうため、誉め方もきちんと考えて行う必要があります。
質問5: 寝酒が止められない人、飲まないと眠れない人への指導は、どうしたらよいでしょうか。
樋口先生
樋口先生:
医学的に言えば寝酒は良くありません。寝酒をすると寝付くまでの時間は短くなりますが、だんだんとお酒の量が増えていく傾向にあるからです。さらに、睡眠の質も悪くなり、とくに太った人は、睡眠時無呼吸がひどくなります。お酒を止められない人には、睡眠の質を確保するために睡眠導入薬の服用を勧めています。しかし、これも依存の問題が出てくるため、注意しながら薬を使っていくことが必要です。  
池田先生
池田先生:
寝乳(ねちち)という方法もあります。寝る前に牛乳を飲むということです。牛乳に含まれるアミノ酸(トリプトファン)は、睡眠の誘導物質になるので、少し温めた牛乳をゆっくり噛むように飲んでみるよう、アドバイスするのも、就眠の儀式として一つの手かもしれません。
質問6: 再発準備性について、長年禁酒を継続していても短期間で元の状態に戻るといった例があるように、禁酒の継続をどのようにアプローチするとよいでしょうか。
樋口先生
樋口先生:
本気でお酒を止めようとしている人に対しては、周りの人たちがお酒に巻き込まない配慮してあげることが大切です。
止めている人が2年くらい経つと、周りの人たちが「もうそろそろいいんじゃないか。かわいそうだからそろそろ飲み会に誘おうよ」といったことがありがちです。それで失敗して上手くいかなくなるケースがあります。職場で、禁酒をしている人に対し「誘いたいけどあなたのために良くないから誘えない・誘わない」といったことを明確に本人に伝え、周りの人たちがそういった姿勢を見せることが必要です。また、定期的なカウンセリングを実施できる環境づくりを職場で作ることも大切です。職場の人たちの配慮は欠かせません。
質問7:40代、50代で、アルコールに対して無関心の人への対応はどうしたらよいでしょうか。
和田先生
和田先生:
無関心期の人を関心期にもっていくのは実際大変なことです。スクリーニングチェックを実施し、自分の状況を振り返ることも方法の一つではないでしょうか。
池田先生
池田先生:
50代となると、30年はお酒の付き合いがあるということになります。とはいえ、50代までは、アルコールやタバコをやっていても、まだ生命に直結するリスクは低いものです。常習飲酒を続けている人に対しては、「こういう生活習慣を続けていると、人生の先にはこういうことが待っている可能性が高いですよ」という話をしてみるとよいでしょう。しかし、そういう話を聞いても、本人は認識がないため、意識を持てないことが多いものです。問題のある方をどのようにいい方向に導けるかという点については五里霧中、なかなか明解な答えがない状況です。
また、生活習慣病という意味では、社会の仕組みの変化も影響を与えていると言えます。昔、55歳定年の時代は、産業医の出番はほとんどなく、社員は55歳まで元気に働いていました。ですが定年が延び、60歳定年になったら、55歳を過ぎた人たちが、残りの5年間でガンが見つかったり、重篤な疾患を発症したり、死亡に至ったりといったことが起こり始めました。以前から私は、企業の総務担当者に「60歳定年になると、総務は社員のお葬式の対応で忙しくなるよ」と言ってきましたが、現実になりました。今後、65歳定年になれば、その頻度はさらに増え、産業医も忙しくなり、指導する会社の健康管理部門は死を意識した指導も行う必要が出てくることが予測されます。
樋口先生
樋口先生:
本日お話した内容が冊子になっており、チェックも対象者にやってもらえるように公開しています。認知行動療法的なことも含まれているものです。カウンセリングは、何もないところから指導すると難しいですが、ワークブックで「これやってみたらどう?」といった気軽な感じで渡してみるのも良いと思います。国立病院機構 肥前精神医療センターのホームページでは、ワークブックを公開しています。基礎編、専門編、日記などがあるので、ダウンロードして、無関心期の人に使う方法もあります。依存症の対応は難しい問題でもあるので、その場合は速やかに専門医療機関の受診を勧めることが効率的かもしれません。

【参考資料】
国立病院機構 肥前精神医療センター
多量飲酒者への節酒指導のためのワークブック、飲酒日記(国立病院機構 肥前精神医療センター)

なお、講師の樋口先生が院長をされている久里浜医療センターHPでは、多量飲 者の酒量を減らすための介入ツールを公開しています。ご参考にされてください。
多量飲酒者の酒量を減らすための介入ツール

(2012.04)
全国生活習慣病予防月間のテーマは?
  • 全国生活習慣病予防月間
  • 全国生活習慣病予防月間2011年“禁煙”
  • 全国生活習慣病予防月間2012年“少酒”
  • 全国生活習慣病予防月間2013年“少食”
  • 全国生活習慣病予防月間2014年“多動”
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