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5月31日は「世界禁煙デー」 ~今年のテーマは「タバコ産業の干渉から若者を守ること」~

キーワード: 生活習慣 一無・二少・三多 歯周病 「無煙」喫煙は万病の元 協会・賛助会員関連ニュース 喫煙

 世界保健機関(WHO)は毎年5月31日を「世界禁煙デー」とし、禁煙啓発キャンペーンを行っています。日本でもこの活動に合わせ、厚生労働省が5月31日~6月6日の1週間を「禁煙週間」として定め、各種の禁煙啓発施策を展開しています。
 今年の「世界禁煙デー」のテーマは「タバコ産業の干渉から若者を守ること」です。
who2024r.png  WHOによると、「タバコ産業は、若者に影響を与え、干渉し、さまざまな広告に年間約80億ドルを費やし、生涯にわたって人々から利益を得るために若者をターゲットにし、新たな中毒の波を作り出しており、すべての地域で、子どもたちが大人よりも高い割合で電子タバコを使用しており、世界全体では13~15歳の青少年3,700万人がタバコを使用していると推定されている」とのことです。
 WHOは「今こそ、健康な未来に対する私たちの人権を守るために立ち上がる時です。団結の力、踏み出す力を示すことによって、これに歯止めをかけましょう」と呼び掛けています

 村松 弘康
日本生活習慣病予防協会 顧問
中央内科クリニック院長

最初の喫煙のきっかけは何?

 タバコは健康にダメージを与える最大のリスク因子であり、より若いうちに喫煙を始めるほど、そのダメージが大きくなるため2、若年者が「最初の1本」を吸わないことが極めて重要です。

 若年の喫煙者が最初にタバコを吸い始めたきっかけに関する調査結果が2022年に国立がん研究センターから公表されています3。「身近な人がタバコを吸っていた、タバコが身近にあった」などに続いて、「テレビや映画で役者が吸うシーンが格好よいと思った」(22.8%)や「タバコの広告を見て関心をもった」(11.5%)など、「タバコ産業の干渉」の影響を示唆するデータが示されています。

 新型タバコについては、若年者での利用が多い傾向があり、WHOの「世界禁煙デー」にあわせて発表されたメッセージの中にも、「すべての地域で、子どもたちが大人よりも高い割合で電子タバコを使用している」と警鐘を鳴らしています。

 ただし、上記の調査結果からもわかるように、タバコの規制は教育や啓発活動だけでは限界があります。そのため、喫煙し難い、禁煙しやすい環境整備が必要となります。タバコ税・価格の引き上げや喫煙場所の制限、タバコの広告規制、禁煙治療の健康保険適用もなども、WHOが主導して行われている環境整備活動です4

新型タバコの有害性(最新研究)

 電子タバコや加熱式タバコといった新型タバコ(わが国では加熱式タバコが主流)は、紙巻きタバコより害が少ないように思われがちですが、新型タバコでも多くの健康被害が生じることがわかってきました。

加熱式タバコによる急性好酸球性肺炎の発症

 急性好酸球性肺炎(Acute Eosinophilic Pneumonia:AEP)は、「から咳」「階段を上ったり・少し無理をすると息切する・息苦しくなる」「発熱」などの症状として発症することが多いことで知られます。気づかずに放置していると重症化することがあります。

 加熱式タバコでも、喫煙開始後に間もなく、AEPを発症した症例報告が散見されています5,6,7。1例では劇症型AEPを呈し、体外式膜型人工肺(ECMO)による人工呼吸管理を必要としたと報告されています6

食品添加物の吸入による電子タバコ関連肺障害の報告

 米国では電子タバコ関連肺障害*(e-cigarette or vaping product use associated lung injury:EVALI)が大きな問題となっています。米国疾病対策センター(CDC)によると、2020年2月18日までに2,807例が報告されており、68人の死亡も確認されています8。EVALI患者の肺胞洗浄液中から、ほぼ全例でビタミンEアセテートが検出されたことから、最終的にEVALIの原因物質はビタミンEアセテートであったと考えられています9
*びまん性肺胞障害、急性好酸球性肺炎、過敏性肺臓炎、巨細胞性間質性肺炎、リポイド肺炎など

 実際に、2019年11月にCDCから警告が出され、電子タバコ使用やビタミンEアセテート添加が規制または自粛されて以降、EVALIの発生報告は激減しました。

 ビタミンEアセテートは、消化管内で加水分解されてビタミンEとして吸収され、体内で抗酸化作用を発揮することから、健康食品やスポーツ飲料、サプリメントなどに食品添加物として利用されています10。しかし、「食べて大丈夫な物質でも、肺に吸い込んだ場合には大丈夫とは限らない」ということを、我々はEVALIの事例から学ばなければならないでしょう。

発がん物質に変化するプロピレングリコール(PG)
グリセロール(Gly)

 新型タバコには、PGやGlyなどの有機溶剤が大量に使用されています11。電子タバコではニコチンを希釈し、気化させやすくする目的などで、また加熱式タバコでは発火しないよう保湿し、カビないよう処理する目的などで使用されています。PGは保湿剤や抗菌剤、Glyは増粘剤や甘味料などとして医薬品・化粧品や食品添加物としても広く用いられています。しかし、吸入した際の安全性は確認されていません。

 PGやGlyは加熱により分解されてホルムアルデヒドに変化することが知られています12。ホルムアルデヒドは、国際がん研究機関(IARC)がグループ1に分類している強力な発がん物質です。実際に電子タバコのリキッドは、加熱後に毒性が増すことも報告されています13。従来の紙巻きタバコには含まれていなかった新たな添加物によって、新たな健康被害が生じる危険性が危惧されているのです。

隠れた発がん物質ホルムアルデヒドの吸入

 タバコ会社は、新型タバコに含まれるホルムアルデヒドの量は、紙巻きタバコの10%程度だと公表していますが、実際にはそうではありません。前述のとおり、加熱されることでPGやGlyはホルムアルデヒドに変化しますが、PGやGLYの存在下では、ホルムアルデヒドはさらに「ホルムアルデヒド・へミアセタール」へと形を変えて大量に存在しています。

 この化合物は、ホルムアルデヒドとしては測定されませんが、血管内に吸収されると加水分解され、再びホルムアルデヒドに戻るため、実際には大量のホルムアルデヒドを吸入していることになります14

加熱コイルから溶出した金属ヒューム(微粒子)を吸入

 電子タバコは、ニコチン入りのリキッドを金属コイルで加熱することでエアロゾルを発生させますが、加熱によりコイルから溶出した金属ヒュームを吸入していることも報告されています15。 

 2017年に国際がん研究機関(IARC)は金属ヒュームをグループ1の発がん物質に認定しており、塵肺(溶接工肺)だけでなく、肺がんの危険性も高まります。電子タバコからは、クロム、マンガン、ニッケル、鉛、錫、亜鉛など様々な金属が検出されており、クロムによる気管支喘息、皮膚障害や鼻中隔穿孔、マンガンによる神経障害やパーキンソン病、鉛による造血障害、神経障害や腎障害など、多彩な疾病を引き起こす可能性があります。

新型タバコも肺気腫/COPDを誘発

 新型タバコも肺気腫/COPD(慢性閉塞性肺疾患)を誘発することが分かってきました。以前から、電子タバコのエアロゾル吸入により、動物モデルで肺内の炎症性サイトカインやタンパク分解酵素の発現が亢進している様子や、組織学的に肺気腫が形成されることが報告されていました16

 ヒトでも肺胞洗浄液中の好中球エラスターゼやMMP等のタンパク分解酵素が、紙巻きタバコ使用者と同レベルまで増加していることが確認されており17、肺組織の破壊/COPD発症が懸念されていました。

 2022年のPublic Health誌に、7,175人の電子タバコ使用者と25,926人の元電子タバコ使用者のCOPD有病率について調査結果が掲載されましたが、電子タバコを毎日使用する者は、紙巻きタバコも電子タバコも吸わない者と比較して3.17倍COPDを発症しており、元電子タバコ使用者でも1.55倍でした18

 加熱式タバコでも、エアロゾル暴露によりマウスの肺で肺気腫が形成される様子が報告されています19。同報告では、アイコスのエアロゾル暴露によりアポトーシス関連タンパクが誘導され、組織学的に肺気腫を形成することを確認しています。

 他の報告では前出のPGやGlyがヒトの小気道上皮細胞の細胞増殖を抑制し、細胞生存率を減少させることが報告されています20。この現象は、COPD患者さんから採取した小気道上皮細胞において、より顕著であることも示されており、タバコを吸う方やCOPD患者さんが新型タバコに切り替えて使用することは、肺組織の障害がより進行する可能性があると警告しています。

新型タバコと血管疾患

 これまで紙巻タバコは、がんや呼吸器疾患だけでなく、脳・心血管疾患、歯周病などの多くの関連性が示されている病気を引き起こすことがよく知られています21。しかし近年、新型タバコにおいても健康障害が明らかになり、動脈硬化や脳との関係についての研究が、本年報告されました。

 加熱式タバコを利用している若年者を対象とするスウェーデンの研究では、加熱式タバコのばく露によって、動脈血管の硬さの指標である脈波伝播速度(脈が心臓から動脈に伝わる速度を測定し動脈の硬さを推測)が有意に上昇したほか、心拍数、血圧にも有意な影響がみられました。さらに動脈硬化による心筋梗塞などの血管疾患の直接的な原因となり得る血小板凝集による血栓形成能(血栓のできやすさ)が有意に上昇したと報告されました22

 加熱式タバコの長期使用が脳に及ぼす影響はよくわかっていません。そこで、広島大学の研究チームは、アルツハイマー病のモデルマウスに長期間(週5日間×16週間)加熱式タバコをばく露させ、加熱式タバコの脳への影響を検討しました。その結果、大脳皮質において探索的に行った遺伝子の発現解析では、加熱式タバコのばく露と非炎症経路との関連がみつかり、とくに神経下垂体および神経ペプチドホルモン活性(神経ペプチドは細胞間の神経伝達物質で学習や記憶などにも関与する)に関連している可能性が示されたと報告しています23

新型タバコと歯周病
6月4~10日は「歯と口の健康週間」

 「禁煙週間」とほぼ同時期の6月4~10日の1週間は「歯と口の健康週間」(厚生労働省・文部科学省・日本学校歯科医会・日本歯科医師会)でもあります。

 喫煙と歯周病のリスクはすでによく知られています。喫煙者の歯周病のリスクは受動喫煙経験のない非喫煙者の約3.3倍。また、家庭で受動喫煙経験のある非喫煙者では約3.1倍、家庭および家庭以外の場所で受動喫煙経験のある非喫煙者では約3.6倍とする報告や喫煙歴のある人は残存歯数が少ない傾向も明らかに示されています24

 最近では、新型タバコの悪影響に関する知見も報告され始めています。2022年に発表された米国ニューヨーク大学の研究では、重症度が同程度の歯周炎患者101人の唾液中の細菌叢を6カ月間隔で2回検査したところ、電子タバコ使用者の唾液の細菌叢は、紙巻きタバコの喫煙者と同様の変化が起きていることが確認され、細菌叢のバランスや歯周病の進行に関わる炎症性サイトカインのレベルの上昇が認められたと報告しています25

 また、本年クロアチアの研究者は、非喫煙者と従来の紙巻きタバコ喫煙者、加熱式タバコ使用者の歯周組織の状態を横断的に検討しました。加熱式タバコ使用者は、紙巻きたばこ喫煙者ほどではないものの、歯周組織の状態の悪化が認められたと報告しています26

「一無、二少、三多」の健康習慣

 pictgram_250.png日本生活習慣病予防協会では、日常心がけたい生活習慣をわかりやすく表現した健康標語『一無、二少、三多』(一無:無煙・禁煙、二少:少食、少酒、三多:多動、多休、多接)の実践を勧めており、毎年『一無、二少、三多の日』(1月23日)を起点に、2月を「全国生活習慣病予防月間」として、毎年テーマを設定して、集中的に情報発信を行っています。

 一無、二少、三多とは

 2023年の全国生活習慣病予防月間では「一無(無煙・禁煙):あなたと地球の健康のために禁煙を!」をテーマに、市民公開講演会を開催し、「環境破壊と新型タバコ」「たばこと歯周病」「新たな禁煙治療法~オンライン診療と禁煙アプリ~」など講演のオンデマンド映像を継続して公開しています。

 全国生活習慣病予防月間2023「一無(無煙・禁煙)」
「たばこに関する新たな問題~環境破壊と新型たばこ~」

村松 弘康
中央内科クリニック 院長、日本生活習慣病予防協会 顧問
東京都医師会タバコ対策委員会アドバイザー

 新型タバコ(加熱式タバコ)は一般的に「害の少ないタバコ」だと思われ、メーカーからも「有害成分の含有量は従来型タバコの10%程度」というデータが公表されています。ただ、それは「100階から落ちるか10階から落ちるかの違い」でしかありません。
 そして、世界的に取り組まれている「SDGs」。タバコの生産は貧困国を中心に行われており、収穫にあたる子どもたちが、経皮吸収による急性ニコチン中毒で死亡することもあります。もちろん、栽培に伴う環境破壊も座視してよい問題ではありません。(収録時間22:19)

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「たばこと歯周病」

小林 隆太郎 先生
日本歯科大学 東京短期大学 学長、日本生活習慣病予防協会 顧問

 歯周病は単に「歯の病気」ではありません。「歯のために歯磨きをする」と言っていたのは昔のことで、今では「命を守るために歯を磨く必要」があります。歯周病がさまざまな疾患のリスクを押し上げていることを示すエビデンスが蓄積されています。
 タバコもまた歯周病のリスク因子であり、喫煙者は歯周病罹患率が高くて進行も速い、つまり、口の中の老化が進んでしまっていて、その影響はインプラント治療後にも及びます。タバコは直接的に体を蝕み、かつ、歯周病を介して全身に悪影響を及ぼします。(収録時間24:27)

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参考文献

1.公益社団法人 日本WHO協会「世界禁煙デー 2024」
2.「若者の健康と喫煙」e-ヘルスネット(厚生労働省)
3.「成人年齢とたばこについての世論調査結果」(国立がん研究センター)
4.「わが国のたばこ規制・対策の現状」 e-ヘルスネット(厚生労働省)
5.Kamada T, et al: Acute eosinophilic pneumonia following heat-not-burn cigarette smoking. Respirol Case Rep, 4(6): e00190, 2016.
6.Aokage T, et al: Heat-not-burn cigarettes induce fulminant acute eosinophilic pneumonia requiring extracorporeal membrane oxygenation. Respir Med Case Rep, 4: 26: 87-90, 2018.
7.中村昇太, 他:紙巻きタバコから加熱式タバコに変更後に肺障害を呈した1例.日呼吸誌,10(2):197-201,2021.
8.Outbreak of Lung Injury Associated with the Use of E-Cigarette, or Vaping, Products
9.Blount BC, et al: Vitamin E Acetate in Bronchoalveolar-Lavage Fluid Associated with EVALI. N Engl J Med, 382: 697-705, 2020.
10.10. d-α-トコフェロール酢酸エステル及びトコフェロール酢酸エステル の食品添加物の指定に関する添加物部会報告書
11.Uchiyama S, et al: Simple Determination of Gaseous and Particulate Compounds Generated from Heated Tobacco Products. Chem. Res. Toxicol, 31(7) : 585-93, 2018.
12.内山茂久, 他:電子タバコ,加熱式タバコ等非燃焼式タバコから発生する化学物質の分析.厚生労働行政推進調査事業費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業) 
13.Scott A, et al: Pro-inflammatory effects of e-cigarette vapour condensate on human alveolar macrophages. Thorax, 0: 1-9, 2018.
14.Jensen RP, et al: Hidden formaldehyde in e-cigarette liquid and aerosols. N Engl J Med, 372(4) : 392-394, 2015.
15.Olmedo P, et al: Metal Concentrations in e-Cigarette Liquid and Aerosol Samples: The Contribution of Metallic Coils. Environ Health Perspect, 126(6): 027010, 2018.
16.Garcia-Arcos I, et al: Chronic electronic cigarette exposure in mice induces features of COPD in a nicotine-dependent manner. Thorax, 71(12):1119-1129, 2016.
17.Ghosh A, et al: Chronic E-Cigarette Use Increases Neutrophil Elastase and Matrix Metalloprotease Levels in the Lung. Am J Respir Crit Care Med, 200(11): 1392-1401, 2019.
18.Antwi GO, Rhodes DL: Association between E-cigarette use and chronic obstructive pulmonary disease in non-asthmatic adults in the USA. Public Health, 44(1): 158-164, 2022.
19.Nitta NA, et al: Exposure to the heated tobacco product IQOS generates apoptosis-mediated pulmonary emphysema in murine lungs. Am J of Physiology-Lung Cellular and Molecular Physiology, 322(5): L699-L711, 2022.
20.Komura M, et al: Propylene glycol, a component of electronic cigarette liquid, damages epithelial cells in human small airways. Respiratory Research, 23(1): 216, 2022.
21.「生活習慣病とその予防-喫煙」日本生活習慣病予防協会
22.Lyytinen G, et al. Use of heated tobacco products (IQOS) causes an acute increase in arterial stiffness and platelet thrombus formation. Atherosclerosis. 2024 Mar:390:117335
23.Yamada H, et al. The long-term effects of heated tobacco product exposure on the central nervous system in a mouse model of prodromal Alzheimer's disease. Sci Rep. 2024 Jan 2;14(1):227
24.受動喫煙と歯周病のリスクとの関連について(国立がん研究センター)
25.Xu F, et al. Electronic cigarette use enriches periodontal pathogens. Mol Oral Microbiol. 2022 Apr;37(2):63-76.
26.Mišković I, et al. Periodontal Health Status in Adults Exposed to Tobacco Heating System Aerosol and Cigarette Smoke vs. Non-Smokers: A Cross-Sectional Study. Dent. J. 2024, 12(2), 26.
[mhlab]

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