2014年07月23日
パラチノースと砂糖の違いとは? 血糖とインクレチン分泌を比較
パラチノースと砂糖を摂取した後の血糖、インスリン、インクレチン分泌の変化を比較分析する研究が健常人を対象に行われ、パラチノースが砂糖よりも血糖変動やインクレチン分泌において有用性をもつことが明らかになった。
「パラチノース(物質名:イソマルツロース)」は砂糖由来の糖質で、蜂蜜に微量に含まれ、ブドウ糖と果糖から成る天然の二糖類として知られている。砂糖と同じ4kcal/gのエネルギーのある糖質でありながら、血糖、インスリンの急激な変化が起きないことから、リスクの低い糖質エネルギー源として、「ミルミル」(ヤクルト)、「スローバー」(ブルボン)、「ハイカロゼリー」(キユーピー)、「インスロー」(明治)、「グルコパル」(ネスレ)、「レナプラス」(三和化学研究所)、「ディムベスト」(味の素)、「ゲーターレード ラン」(サントリー)、最近では「スポーツようかん」(井村屋)等々、医療・健康分野の食品で広く使用されている。
「パラチノースに関する過去の研究からみた作用機序を知り、分解・吸収が穏やかであるということは、今我々が使っている糖尿病治療薬αグルコシダーゼ阻害薬(α-GI)のコンセプトに非常に近いなと直感で思いました」と難波氏。「そこで、パラチノースを飲んで普通のお砂糖の場合とインクレチンの分泌バランスを比べてみたらどうかなというのがこの研究のはじまりです」と振り返る。
今回、この研究結果を振り返りながら、パラチノース摂取の有用性について難波氏にうかがった。以下、解説の一部。
難波氏:砂糖とパラチノースを摂取した際の血糖値の推移を見てみると、パラチノースの血糖変動は予想通り山(ピーク)は低くなり、谷は浅くなりました。高濃度のブドウ糖で山が高くなると、血管内皮を傷害するといわれています。高血糖の状態が繰り返し続くことで合併症を引き起こす可能性も高くなります。ですから食後の血糖上昇は、なるべく穏やかなほうがいいのです。
また、インスリン分泌量についても比較してみました。激しくインスリンが出ることによって、血糖値は少し遅れてガクンと下がりこむという現象を引き起こします。ですから、山が高いと、それに巻き込まれて谷も低くなる。急角度に血糖値が下がると、お腹が減ります。激しい血糖変動が1日に1回でも2回でも繰り返され、年余にわたって継続すれば膵臓にとってはストレスになります。血糖値を急激に上げないということは、長い目でみると合併症の予防のみならず、短・中期的にみれば膵臓の不要なストレスを軽減できる癒やしにもなるわけです。
難波氏:GIP分泌に関しては、僕は頭の中では当然、分解されにくいほう(パラチノース)が刺激しないだろうと予測したのです。そして、分解しやすいほう(お砂糖)は、激しく刺激するだろうと。
そうしたら、その通りでした。ただし、GIPというホルモンの特徴として、栄養素を脂肪細胞に取り込みやすくさせるという性質があります。ということは、これがあまり激しく出ると、血中の栄養素、ブドウ糖などを脂肪細胞に導入しやすくするので、肥満を助長しやすいと考えられてます。
GLP-1も、消化管に入った単糖を認識すると消化管粘膜上皮から分泌されます。パラチノースでは分泌されてたGLP-1が、砂糖の場合はすでに上部腸管で消化が終わっているので出ていないことがわかりました。このGLP-1の特徴はGIPの反対で、肥満を抑制しやすい効果を持っており、食欲をブレイクする働きもあります。
難波氏:とういことで、この研究で生理学的、科学的に証明できる4つの有用性を明らかにすることができました。パラチノースは血管をいじめにくい、膵臓を癒やす、肥満を助長しにくい、そして胃の動きも止めて満腹感を少し強めるのではないか?というものです。
我々、糖尿病の医師は食事療法の指導では、カロリーや摂取量、たんぱく質や糖質、脂質といった成分のことについては何となく気を遣うけれど、消化吸収過程のことまで考えることがありませんでした。砂糖と同じ糖質、同じカロリーでも消化をゆっくりにするノウハウがあることなんか考えもしなかった。
でも、砂糖を摂ってはいけないというわけではないんですよ。吸収が速く、インスリン抵抗性を助長しやすい、糖質を無意識のうちに大量に摂取してしまうことがよくないのです。日頃の食生活で、血糖を急激に上げないような、穏やかな食生活の工夫が有用であろうということです。
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「スローカロリーの情報ファイル」
■【掲載論文】Effects of the naturally-occurring disaccharides, palatinose and sucrose, on incretin secretion in healthy non-obese subjects: J Diabetes Investig 2013; 4(3): 281-6.