2023年06月01日
健康日本21で日本人はどのくらい健康になった?
~第二次最終報告書と年次推移を図解~
Part 1 メタボリックシンドローム、糖尿病、脳・心血管疾患の目標達成率
カテゴリー: 生活習慣で見る 高血圧 脂質異常症(高脂血症) 糖尿病 肥満症/メタボリックシンドローム 心筋梗塞 狭心症 脳梗塞 脳出血 患者数 人口動態統計(厚生労働省) 国民健康・栄養調査(厚生労働省) わが国の慢性透析療法の現況(日本透析医学会)
Part 1では、「健康日本21」の背景と全体的な結果の概要、メタボリックシンドロームや糖尿病、脳・心血管疾患などにかかわる目標達成率について解説しました。Part 2では、喫煙、栄養・食生活、飲酒、運動、睡眠、心の健康、高齢者の健康など、当協会の健康スローガン「一無、二少、三多」にかかわる項目について取り上げました。
一般社団法人日本生活習慣病予防協会は、健康日本21推進全国連絡協議会会員として「健康日本21」運動を支援しています。
「健康日本21」の背景と最終結果の概要
⽇本では急速な少⼦⾼齢化や⽣活習慣の変化に伴い、虚⾎性⼼疾患、脳⾎管疾患、糖尿病、一部のがんなどの⽣活習慣病の割合が増加してきました。これに対する国家的な施策として、2000年度にスタートした運動が「健康⽇本21」です。第一次計画期間(2012年度まで)の終了時の評価で明らかになった課題を踏まえ、「全ての国⺠が共に⽀え合い、健康で幸せに暮らせる社会」の実現に向けて、2013年度から「健康⽇本21(第⼆次)」がスタートしました。健康⽇本21(第⼆次)には53項目の目標が掲げられており、目標達成期間はおおむね10年間とされていました。
全体的な評価結果
53項目の目標のうち、8項目(15.1%)は目標に到達、20項目(37.7%)は目標に到達していないが改善傾向(ベースライン時との比較で片側p値が0.05未満)、14項目(26.4%)は変化なし(ベースライン時との比較で片側p値が0.05以上)、4項目(7.5%)は悪化(ベースライン時との比較で片側p値が0.05未満)であり、7項目(13.2%)は評価困難と判定されています。
目標が達成された8項目の中には、健康寿命の延伸、脳血管疾患・虚血性心疾患の年齢調整死亡率の減少、HbA1c8.4%以上の人の割合の減少などが含まれていて、一方、悪化した4項目には、メタボリックシンドローム該当者および予備群、睡眠による休養を十分とれていない人の割合、生活習慣病のリスクを高める量の飲酒者の割合などが含まれています。
主な目標ごとに、どのくらい改善または悪化があったのかをみていきましょう。
メタボリックシンドロームに関しては、予備群も含めた該当者が平成20年(2008)度に比べて25%(約1,000万人)減ることが目標とされていました。特定健診・保健指導(メタボ健診)が2008年度に始まるなど、重点的な施策が行われてきましたが、結果は前述のように「悪化」でした。最終評価時点の2019年度の該当者数は約1,516万⼈であり、ベースラインからの相対的変化が+8.3%でした。
メタボリックシンドロームとそれによる脳・心血管疾患の抑制を主眼として行われている特定健診・保健指導の実施率は、2019年度にそれぞれ55.6%、23.2%で、いずれもベースライン時より改善しているものの、⽬標値(同順に70%、45%)に達しておらず、「⽬標年である2025年度までの⽬標達成も危ぶまれる」と記されています。
なお、評価判定は「B(目標に到達していないが改善傾向)」ですが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、データソースとなる調査の一部が中止された影響が生じています。
糖尿病有病者数については、2020年度の国⺠健康・栄養調査がCOVID-19のために中⽌となったため、2016年度からデータが更新されておらず、「E(評価困難)」とされました。ただし、2019年度の推計は約1,150万⼈であり、⽬標の1,000万⼈には達していないものの、当初予想されていた1,270万⼈と⽐較すると、⼀定程度増加は抑制されているとのことです。
糖尿病の治療を続けている人の割合は67.6%で、目標の75%には到達せずに、策定時より有意な増加もなく、評価は「C(変わらない)」でした。
血糖コントロールの指標であるHbA1cが8.4%以上の人の割合については、1%未満という目標が掲げられていました。これに対して2013年度の時点でこの目標に到達し、それ以降も1%未満の状態が維持されています。ベースラインとの相対的変化は-21.7%であり、判定は「A(⽬標値に達した)」でした。
糖尿病腎症による年間新規透析導⼊患者数については、1万5,000人という目標が掲げられていました。それに対して、わずかな漸減傾向がみられるものの、統計学的には有意でなく、判定は「C(変わらない)」でした。
高血圧の改善については、収縮期血圧の平均値が男性は134mmHg、女性は129mmHgという値が掲げられていました。いずれも2019年度に到達していますが、それ以降、コロナ禍のために評価が中断されたため、判定は「B(目標に到達していないが改善傾向)」とされています。
脂質異常症のうち、中性脂肪やHDL-コレステロールについてはメタボリックシンドロームとの関連で評価されていますので、LDL-コレステロールについてみてみましょう。
LDL-コレステロールについては、160mg/dL以上の割合が男性は6.2%、女性8.8%という目標が掲げられていました。これに対して男性、女性ともに、ベースラインからほぼ横ばいです。以上から、脂質異常症に関する判定は「C(変わらない)」とされています。
メタボリックシンドロームや糖尿病、高血圧、脂質異常症を治療する最大の目的の一つは、脳血管疾患・虚血性心疾患による早期死亡を減らすことです。「健康日本21」で達成された8項目の目標の一つに、脳血管疾患・虚血性心疾患の年齢調整死亡率の減少が入っていたことは、重要な成果といえるかもしれません。 下図のように、男性、女性ともに、双方の疾患の年齢調整死亡率が目標に到達し、判定は「A」となりました。
⽣活習慣病の予防及び社会⽣活を営むために必要な機能の維持・向上等により、健康寿命の延伸を実現し、平均寿命と健康寿命の都道府県格差を縮小することが健康⽇本21(第⼆次)の主目的でした。
令和元(2019)年の健康寿命は、ベースラインの2010年度と⽐較し、男性で2.26年、⼥性で1.76年増加しました。 同期間における平均寿命は、男性で1.86年、⼥性で1.15年増加したことから、健康寿命の増加分は平均寿命のそれを上回っており、男⼥ともに⽬標である「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」を達成し、判定は「A」と評価されました。
一方、平均寿命と健康寿命の都道府県格差は、2010年度と⽐較し、2019年度には、男性と縮⼩傾向(2.79 年→2.33 年)がみられましたが、⼥性では拡大(2.95→3.90と拡大しており、最終評価は、男性は「A」、⼥性では「C」と判定されています。都道府県別の健康寿命の格差と都道府県の健康寿命についての詳細、健康「⽇本21(第⼆次)最終報告」(第3章)をご参照下さい。
一無、二少、三多の普及で、健康日本21を推進
健康日本 21(第二次)の最終評価を踏まえ、健康日本 21(第三次)が、令和6(2024)年度から令和 17(2035)年度までの 12 年間で計画されています。
現在、私たち日本人の健康を取巻く環境は、少子・高齢化に伴う女性の社会進出と育児・介護との両立、高齢者の就労拡大など多様な働き方が拡大する一方、あらゆる分野でのデジタルトランスフォーメーション(DX)化、そして、コロナ禍を踏まえた新しい生活様式への対応といった変化に迫られています。
これらの環境変化も踏まえて、第3次の基本方針は、「①個人の行動と健康状態の改善及び社会環境の質の向上の取組を進めることで、健康寿命の延伸・健康格差の縮小の実現を目指す。その際は、②個人の行動と健康状態の改善を促す社会環境の質の向上という関係性を念頭に置いて、取組を進める。③個人の行動と健康状態の改善のみが健康増進につながるわけではなく、社会環境の質の向上自体も健康寿命の延伸・健康格差の縮小のための重要な要素であることに留意が必要である。加えて、④ライフコースアプローチ(胎児期から老齢期に至るまで人の生涯を経時的に捉えた健康づくり)も念頭に置く」とされています(健康日本 21(第三次)の概念図)。 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会では、健康スローガン「一無、二少、三多」〔禁煙・無煙、少食、少酒、多休、多動、多接(社会や人とのつながり)〕の普及を推進しています。当協会は、健康日本21推進全国連絡協議会の会員として、「一無、二少、三多」の普及を図ることで、健康日本 21を応援してまいります。
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
出 典
■厚生労働省「健康日本21(第二次)」最終評価報告■国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所「健康日本21(第二次)