2023年04月22日
「人々のつながりに関する基礎調査」(内閣官房)からわかる「多接」の重要性
一般社団法人日本生活習慣病予防協会は、2011年の創設以来、「孤独や孤立」についても生活習慣病予防の観点から啓発活動を進めています。
当協会の健康スローガン「一無、二少、三多」(一無:無煙・禁煙、二少:少食、少酒、三多:多動、多休、多接)の「多接」は、「多くの人と交流し、さまざまな事、物に好奇心をもって接し、創造性豊かなイキイキした生活を送る」ことの大切さを示しています。
人は、社会とのつながりが途絶えると身体的・精神的な健康障害が起こりやすことが科学的に検証されています。
「多接」の視点から、公開された令和4年「人々のつながりに関する基礎調査」の一部を紹介します。
調査手法と解析対象者の性別・年齢層
「人々のつながりに関する基礎調査」は、「顕在化してきている孤独や孤立の問題に政府として対応するため、孤独・孤立対策担当大臣が司令塔となり、政府一体となって対策を推進する」ことを背景に令和3年から開始されています。調査対象は全国から無作為に抽出された16歳以上の2万人で、令和4年12月にインターネットまたは郵送により実施されました。有効回答は1万1,218件(56.1%)でした。
解析対象者の46.2%が男性、52.9%が女性、0.9%はその他(答えたくない、わからないなど)で、年齢層は16~19歳が2.9%、20代7.9%、30代11.0%、40代15.4%、50代17.0%、60代17.1%、70代18.8%、80歳以上9.9%です。
調査内容は、孤独の状況、孤立の状況、および新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響という3点です。
孤独の状況:未婚者、離別者、独居者、失業者は孤独を感じやすい
孤独の状況については、「どの程度、孤独であると感じることがあるか」という質問の回答からの直接的な評価と、人付き合いの程度などに関する質問に対する答えからの間接的な評価で把握されています。
直接的評価では4.9%が、孤独感が「しばしば・常にある」という結果であり(図1)、間接的評価では7.1%が12点満点中10点以上という結果(図2)でした。いずれについても、前年(令和3年)との比較で、孤独を感じている人がやや増えているという結果でした。
性別や年齢層との関連でみると、直接的な評価で孤独感が「しばしば・常にある」と回答した人の割合は、年齢層別では30代が7.2%で最多であり、80歳以上が2.3%で最少でした。性別では、男性の平均が5.1%、女性の平均は4.6%、性別・年齢別の最多層は、男性では50代(7.3%)、女性は30代(7.9%)です。
次に、婚姻状況との関連をみると、直接的な評価で孤独感が「しばしば・常にある」と回答した人の割合は、未婚者(9.7%)と配偶者と離別した人(8.8%)で高く、配偶者のある人(3.0%)や死別した人(3.1%)は低値でした。
また、同居人がいる人ではその割合は4.1%であるのに対して、独居者は9.2%と高値でした。
就業状況で比較すると、失業中の人は「しばしば・常にある」の割合が9.9%であり、全体平均の4.9%の倍以上高いという結果です。一方、無職であっても失業でない場合(リタイアしたひとと考えられます)は4.5%と全体平均以下でした。
外出や人と話すことが孤独感を抑制している
続いて、外出頻度や人と会って話す頻度、不安や悩みの相談相手の有無と、孤独感の関連をみていきましょう。
まず、外出頻度に関しては、週1日未満の場合、直接的な評価で孤独感が「しばしば・常にある」と回答した人の割合が7.8%であり、全体平均の4.9%より高く、さらに「外出しない」人ではその割合が16.0%に上っています(図3)。また、「直接会って話す頻度」が月1回未満の場合は6.7%がそれに該当、「全くない」では14.4%でした(図4)。
不安や悩みの相談相手が「いる」という人は全体の89.3%、10.4%は「いない」であり、「いない」と答えた人の19.5%は、孤独感が「しばしば・常にある」と回答していました(図5)。
孤独感の強い人とそうでない人の差は「人間関係のトラブル」
現在の孤独感に影響を与えたと思う出来事のトップは「家族との死別」でした。ただし、孤独感が「しばしばある・常にある」「時々ある」「たまにある」人と「決してない」「ほとんどない」人とを比較した場合にその差が顕著な出来事は、「人間関係による重大なトラブル」で、前者は14.5%、後者は4.5%であり、群間差は10ポイントに上ります(図6)。
心身の健康がよくないと孤独感を感じる人が多い
孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合が最も高いのは、心身の健康状態が「よくない」で21.7%となっています。一方、その割合が最も低いのは、健康状態が「よい」で1.6%でした(図7)。
孤立の状況:半数強は社会活動に参加していない
次に、孤立の状況の調査結果に着目すると、まず、社会活動に「特に参加していない」人が53.9%と半数強に上ることがわかりました。この数値は前年の調査からほとんど変化ありません(図8)。
一方、自分のまわりに不安や悩みを抱えている人がいたら、積極的に声掛けや手助けを「しようと思う」人も、過半数の51.5%に上っています(図9)。年齢層別にみると、男女ともに16~19歳でその割合が最多でした。
コロナが依然、多接を妨げている
最後に、新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響をみると、人と直接会ってコミュニケーションをとる機会が「減った」とする回答が7割を占めていました。本調査が実施された昨年12月時点では、依然としてパンデミックが人と人の出会いを妨げていたことがわかります(図10)。
内閣官房では、本調査の結果を、孤独・孤立対策の実施や見直しに活用するとしています。また、今回の調査を踏まえた必要な見直しを行ったうえで、令和5年においても引き続き本調査を実施するとのことです。
孤独とつながり
海原 純子(心療内科医、昭和女子大学 客員教授、日本生活習慣病予防協会 理事)
孤独感を悪いものとすることは問題です。孤独という状況から自分を見つめなおすことは人にとって必要な時間とも言えます。ただ孤立して社会から切り離されたように感じることや取り残された感情が継続していることは心のエネルギーの低下につながります。
今回の調査では、UCLA孤独感尺度を用いて、「取り残された感」「孤立感」「人とのつきあいがない」という指標を用いて調査していますが、その結果、年代的には30代が孤独感が高く、性別では男性が女性より高く、男性では50歳代、女性では30歳代が孤独感が最も高いと報告されています。また経済的に厳しい状態の方や失業中などの方では孤独感が高くなっています。孤独に影響を与える状況は家族の死亡や自分の病気や仕事上の問題などで、これはライフイベントのストレス要因と合致しており、強いストレスを受けた時の状況からの回復がうまくできない、あるいは受け入れ切れない場合に孤独感が高まることが推察されます。
孤独感から引きこもりなどに移行することを防止するためには、こうしたストレス要因のサポートが必要です。サポートには直接の支援のほか情報支援(どこに行けば必要なサポートを受けられるかの情報発信)、共感支援(話を聞く、本人が安心して話をできる場、グリーフケア、ピアサポートを含め)なども併せて充実させることが必要でしょう。
また、日本社会ではとかく「深い」つながりだけを重視しがちですが、「浅い」つながり、例えば、趣味や教養、グループ活動、スポーツ活動などのネットワークなども充実させて参加しやすくすることで孤立を防ぐことが大事でしょう。
東日本大震災の際、仮設住宅に暮らす方1,600名に協力をお願いして、心身の健康状態や地域とのつながりの調査をしましたが、周りとのつながり感が強い方ではストレス状況の中でも生活満足感が保たれている一方、周りとのつながり感が少ない方では生活満足感は低下していました。孤立を防ぐ支援として、いいつながりを作れるような場を提供することも提案したいと思います。
ひとりで悩まず相談を
和田 高士(東京慈恵会医科大学 客員教授、日本生活習慣病予防協会 副理事長)
約50年前、ストレス度の測定法として、ライフイベントとの関係が発表(J Psychoson Res 1967;11:213-218)されたのを思い出します。それによると、配偶者の死、離婚、夫婦別居、親族の死が上位に、そして個人のけがや病気という結果でした。今回は時代も変わり、ストレスではなく、孤独・孤立という観点から調査がなされました。孤独感を高める要因として、物理的な関係のみならず、人間関係による重大なトラブル、家族間の重大なトラブル、といった精神的な問題が目につきます。
一人でじっと悩んでいても解決はされにくい。昔から、雑誌、新聞、ラジオ番組では人生相談というコーナーがありましたが、昨今は、多くの相談窓口がありますのでぜひ活用されるとよいでしょう。内閣官房もままざまのタイプの相談先を紹介しています。
あなたのための支援があります(内閣官房)
出 典
■「人々のつながりに関する基礎調査」参 考
■一無、二少、三多とは■孤独・孤立と生活習慣病
■こころの密を育てる(全国生活習慣病予防月間2022:「多接」)
Part 1 ウェルビーイングを高める認知行動変容アプローチ
ネガティブ感情を切替える 4大感情と認知・行動 Part 3 こころを元気にする4つのステップとAIチャットボット