2007年04月25日
メタボリックシンドロームは高LDLコレステロールから独立した危険因子で、両者の合併は動脈硬化のリスクをより高める 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」発行
カテゴリー: 肥満症/メタボリックシンドローム
日本動脈硬化学会はこのほど「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」を発表しました。5年前に発表した「動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版」の内容を、国内外の臨床研究で得られた新たなエビデンスを取り込み、改訂したものです。
診断基準について
診断基準の数値そものものは変更ありませんが、総コレステロール値は診断に用いないことになりました(表1)。これは、総コレステロールは善玉のHDLコレステロールも含んだ検査値なので、HDLコレステロールが多いために総コレステロールの値が高くなっている場合、(からだの健康にとってそれほど悪い状態ではないのにもかかららず)病気と診断してしまう可能性があるからです。
病名について
そこで従来「高脂血症」と呼んでいた病態を、「脂質異常症」と呼ぶように提言しています。「高脂血症」だと、善玉のHDLコレステロールが少な過ぎる状態を指す「低HDLコレステロール血症」を含む病名としてはまぎらわしいためです。
治療目標と治療法について
治療目標については、一次予防(心筋梗塞や狭心症などの動脈硬化性の病気を起こさないための治療)と二次予防(動脈硬化性の病気を再発させないための治療)に大きく二分し、一次予防についてはさらに、危険因子の数によって低リスク、中リスク、高リスクに三分したうえで、それぞれの管理目標が設定されています。
管理目標値自体は、総コレステロールの項目がなくなった以外、従来のガイドラインと変わりありません(表2)。
ただし、一次予防においては、まず、「生活習慣の改善を行ったあと、薬物治療の適応を考慮する」とし、食事療法や運動療法の重要性をしっかりとアピールしたかたちになりました。二次予防については、「生活習慣の改善とともに薬物療法を考慮する」ことを、治療方針の原則として掲げています。
メタボリックシンドロームの人の場合
メタボリックシンドロームも動脈硬化が進みやすい状態ですが、その診断基準には、本ガイドラインで最も重視しているLDLコレステロールの値が入っていません。しかしこれは、「LDLコレステロールが動脈硬化の重要な指標ではない」ことを意味するのではありません。これまで、高脂血症(脂質異常症)や糖尿病などの診断基準に該当しないために治療対象になっていなかった人の中から、動脈硬化性の危険が高い人を見逃さないようにするため設けられたのが、メタボリックシンドロームの診断基準です。LDLコレステロールが高い高脂血症(脂質異常症)に該当する患者さんは、当然、それを治療することが必要です。動脈硬化の最大の危険因子が高LDLコレステロール血症であることは、メタボリックシンドロームの診断基準ができた今も、以前と変わりありません。
もちろん、高脂血症(脂質異常症)の患者さんがメタボリックシンドロームを併発することもあります。本ガイドラインでもメタボリックシンドロームに関する項目が章として設けられ、生活習慣改善の重要性と、内臓脂肪の減少、LDLコレステロールの管理が必要であることを示しています。
表1 脂質異常症の診断基準(空腹時採血) | |||||||||
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LDLコレステロール値は直接測定法を用いるかFriedwaldの式(LDLコレステロール=総コレステロール−トリグリセライド÷5)で計算します。 ただし、トリグリセライドが400mg/dL以上の場合は直接測定法でLDLコレステロール値を測定します。 | |||||||||
なお、上記の診断基準は薬物療法の開始基準を表記しているのではなく、薬物療法の適応は他の危険因子も考慮して決められます。 | |||||||||
〔日本動脈硬化学会「動脈硬化疾患予防ガイドライン2007年版」より、一部改変〕 |
表2 リスク別脂質仮目標値 | |||||||||||||||||||||||||||
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糖尿病、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症があれば、カテゴリーIIIになります。 | |||||||||||||||||||||||||||
なお、脂質管理と同時に他の危険因子(喫煙、高血圧や糖尿病の治療など)を是正する必要があります。 | |||||||||||||||||||||||||||
〔日本動脈硬化学会「動脈硬化疾患予防ガイドライン2007年版」より、一部改変〕 |
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