肥満・メタボリックシンドロームにおけるセルフケアのための機能性表示食品・サプリメントの位置づけ
2015年、保健機能食品制度の枠組みの中で、「機能性表示食品」が制度化されました。その後、さまざまな食品成分の機能性を訴求する製品の届出が受理され、2022年2月に、5,000製品を超えています。それらの中には、肥満やメタボリックシンドロームに関連した表示として、「体脂肪(内臓脂肪)を減少させる」「高めのBMIの改善に役立つ」「ウエスト周囲径を減らす」といった記載をした製品があります。
一方、2022年に改訂された「肥満症診療ガイドライン」(日本肥満学会)には、サプリメント・健康食品や機能性表示食品についての記載は、一切ありません。理由は、機能性表示食品やサプリメントは、その制度上、「肥満」者は対象ですが、「肥満症患者」は、対象外とされているためです。
しかし、高めのBMIや減量の必要性を指摘された場合、セルフケアでサプリメント・健康食品も選択肢となることが考えられます。
そこで、本稿では、肥満やメタボリックシンドロームに対して、セルフケアで用いることが想定されるサプリメントおよび機能性表示食品について概説しました。
なお、肥満の改善や減量は、食事や運動、休息、睡眠などの生活習慣の見直しが大切です。その上で、サプリメント・機能性食品を上手に利用しましょう。
はじめに
現在、機能性食品成分を含有するサプリメント・健康食品が、健康保持や疾病予防だけではなく、特定の病態や症状の改善を目的として利用されるようになりました。また、機能性食品成分の一部では、疾病予防や症状改善に関する一定の科学的根拠が構築されています。その結果、2010年代初めより、日本国内の各学会が発表する疾患別診療ガイドラインにおいて、機能性食品成分やサプリメントの有用性が明記されるようになっています。
かつては、健康食品の安全性や有効性について科学的根拠の有無が議論されていましたが、現在では、どのような病態にどの機能性成分を投与すれば効果が期待できるかといった、適正使用に向けた情報提供が行われています。すでに、複数の診療ガイドラインにおいて、サプリメント成分の有用性が明記されるようになったことから、補完療法における機能性食品成分の臨床的意義を把握することは、健康増進・疾病予防および健康寿命延伸のために重要です。
肥満および肥満症と機能性食品
■肥満と肥満症 日本肥満学会は、2000 年に、肥満者から医療の対象となる集団を抽出するため、「肥満症」の概念を提唱しました。つまり、治療対象を BMI のみで定義するのではなく、健康障害の合併や内臓脂肪蓄積に基づいて抽出し、診療の実施を推奨しています。
■肥満および肥満症の定義 「肥満」は、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態をさし、体格指数(BMI)が25以上で判定されます。これに対して、「肥満症」とは、肥満があり、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか,その合併が予測され,医学的に減量を必要とする病態です。
また、内臓脂肪型肥満は、健康障害の合併リスクが高いため,現在健康障害を伴っていなくとも肥満症と診断されます。
■肥満症の治療の目標 肥満症の治療では、3%以上の減量によって複数の健康障害が改善するというエビデンスなどに基づき、3%以上の減量目標が設定されます。高度肥満症の場合は、合併する健康障害に応じて減量目標は異なり、現体重の5~10%を減量目標とします。食事、運動、行動療法を行った上で減量目標が未達成の場合、肥満症治療食の強化や薬物療法、外科療法の導入が考慮されます。
■診療ガイドラインの課題
日本肥満学会による診療ガイドラインには、機能性食品成分・サプリメントに関する記載がありません。
一方、「体脂肪(内臓脂肪)を減少させる」「高めのBMIの改善に役立つ」「ウエスト周囲径を減らす」といった表示により、肥満の改善を訴求する機能性表示食品は、すでに、多数、上市されています。また、一般用医薬品(OTC医薬品)では、漢方薬の「防風通聖散」などが肥満に対するセルフケアのために市販されています。
リアルワールドでは、肥満やメタボリックシンドロームの該当者に加えて、肥満症患者も、セルフケアや補完療法として、サプリメント・健康食品や機能性表示食品を利用していることが推察されます。
■サプリメント・機能性食品と肥満 肥満症は、健康障害を有している状態であり、医療機関での適切な診療が求められることから、診療ガイドラインが示されています。
一方、合併症を有していない肥満、あるいは、メタボリックシンドローム予備群では、減量のためのセルフケアの選択肢として、機能性食品成分・サプリメントの利用が考えられます。診療ガイドラインでは肥満症が対象であり、肥満は対象ではないとしても、機能性食品成分やサプリメントに関する記載がまったくないことについては改善の余地があると思われます。
■機能性表示食品と肥満
2015年に始まった機能性表示食品の届出数は、2022年2月の時点で、累計5,000件を突破し、その後も、増加しています。
2023年4月12日の時点で、表示されている機能性を調べたところ、「内臓脂肪」が683製品、「BMI」が719製品でした(図1)。
しかし、機能性表示食品は、健常人を対象としているため、エビデンスとなる研究についても、「肥満症」患者を除外する必要があります。つまり、BMI25以上の肥満者を対象にしたランダム化比較試験を根拠とする場合でも、被験者の中の肥満症患者は除外して、解析し、消費者庁への届出が行われます。
前述の肥満症診療ガイドラインは「肥満症」を対象にしているのに対して、機能性表示食品は、少なくとも制度上は、肥満症は対象外となります。
■リアルワールドでのエビデンス利用における課題
一般の消費者/患者にとっては、自らが肥満や肥満症、メタボリックシンドロームといった定義や診断基準に当てはまるかどうかよりは、自らの体重コントロールや減量に必要な手段として、機能性表示食品やサプリメント・健康食品を選択肢の一つとして考慮するでしょう。
『消費者の「健康食品」の利用に関する実態調査』(内閣府・消費者委員会)によると、1万人を対象にしたアンケートの結果、約6割の消費者が健康食品を利用していることが報告されました。同調査では、健康食品を利用する目的として、14.0%の人が「ダイエット」と回答しています。サプリメント・健康食品として用いられる機能性食品素材には、ダイエット(減量)を訴求する成分も多数存在します。
前述のように、肥満症診療ガイドラインでは、機能性表示食品やサプリメント、漢方薬(防風通聖散)への言及はありません。一方、消費者が目にする機能性表示食品には、「高めのBMI」や「内臓脂肪」といった表示があります。しかし、機能性表示食品は、肥満症患者のデータはエビデンスから除外されています。
機能性食品・サプリメントの抗肥満作用
従来、有効性や安全性に関する科学的根拠について、サプリメントは医療用医薬品よりも十分ではないとされていました。しかし、近年では、臨床研究が顕著に増加し、一定の科学的根拠が構築され、診療ガイドラインなどを通じて、エビデンスの提供が行われています(図2)。
肥満やメタボリックシンドロームの該当者、あるいは肥満症患者を対象とした、ダイエット(減量)訴求の機能性成分についても同様です。複数の臨床研究や系統的レビューによって、一定の効果が示されている機能性食品素材が知られています。
代表的な機能性成分の概要を次に示しました。これらは、機能性表示食品の関与成分としても利用されています。 なお、機能性表示食品の届出情報は、消費者庁のサイトで確認できます。
機能性表示食品の届出情報検索代表的な機能性成分
■アスタキサンチン[英名]astaxanthin[別名]ヘマトコッカス藻 [学名] Haematococcus pluvialis
基礎研究では、脂肪蓄積抑制やインスリン抵抗性改善、脂質異常症の改善、高血圧改善などが知られている。予備的な臨床研究では、脂質代謝改善作用や眼精疲労改善作用を認めたという報告もある。アスタキサンチンを関与成分とする機能性表示食品では、眼精疲労、抗酸化、保湿といった表示で受理されている。
なお、アスタキサンチンと同じキサントフィル類では、赤パプリカ由来キサントフィルを関与成分とする機能性表示食品が、「体脂肪を減らす、BMI値を改善する、紫外線刺激から肌を保護する、お通じを改善する」という表示で受理されている。
■アフリカンマンゴノキ
[英名]African wild mango[学名]Irvingia gabonensis [和名]アフリカンマンゴー
アフリカンマンゴノキは、アフリカやインドに自生する高木であり、マンゴーのような果実をつける。ポリフェノールであるエラグ酸が豊富に含まれており、基礎研究において、レプチンの低下やアディポネクチンの増加、脂質合成抑制といった作用が知られている。複数のRCTおよびメタ解析により、アフリカンマンゴノキ由来エラグ酸による減量効果が示されている。
アフリカンマンゴノキ由来エラグ酸を関与成分とする機能性表示食品では、「肥満気味の方の体重、ウエスト周囲径、体脂肪、内臓脂肪、血中中性脂肪の減少をサポートし、高めのBMI値の改善に役立つ」といった表示が受理されている。
■α-リポ酸
[英名]alpha lipoic acid [別名]thioctic acid、チオクト酸
基礎研究ではα-リポ酸による抗酸化作用、メラニン産生抑制作用、ミネラルおよび重金属のキレート作用が示されてきた。臨床試験では、2型糖尿病における血糖コントロール改善作用や末梢神経障害改善作用、運動負荷時の酸化障害抑制作用が報告されている。また、基礎研究においてα-リポ酸の抗肥満作用が報告されており、減量目的での利用もあるが、臨床試験のデータは十分ではない。
なお、α-リポ酸の服用とインスリン自己免疫症候群(IAS)の発症との関連を示唆する症例が複数報告されている。IASの発症機序として、特定のHLAを持つ患者がSH基を有する薬剤を服用した際、インスリン分子内のS-S結合が還元され、α鎖とβ鎖が分離することによって、通常は露出しないエピトープが現れ、インスリン抗体の産生が惹起されると考えられている。α-リポ酸は体内でSH基を有するジヒドロリポ酸に転換されることが知られており、α-リポ酸の摂取とIAS発症との関連が否定できない。αリポ酸服用中に、発汗や震えなど低血糖症状が現れたら摂取を中止する。
■カカオ
[英名]Cocoa[学名]Theobroma cacao
カカオ豆またはカカオ種子は、テオブロマ・カカオの果実の乾燥および発酵種子である。カカオ豆には、メチルキサンチンや抗酸化ポリフェノール (テオブロミン)やカフェインなどの機能性食品成分が豊富に含まれており、インスリン抵抗性と酸化ストレスを軽減しながら、白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞に変換し、脂質異化作用と内皮機能を強化することで減量に有用であるとされている。
若年成人を対象にしたランダム化比較試験(RCT)では、カカオ(ココア)とカテキンの併用投与により、食事摂取量の減少効果が示された。また、2報のRCTでは、カカオによる成人の体重減少効果が報告された。
■L-カルニチン
[英名]L-carnitine
L-カルニチンは、末期腎疾患、慢性心不全、狭心症、心筋梗塞、ジフテリア性心筋炎、甲状腺機能亢進症、男性不妊症等に効果が示されている。予備的な臨床研究では、L-カルニチンが肥満に対する補完療法として有効という報告や認知機能改善作用を示した報告がある。
■カルシウム+ビタミンD
[英名]Calcium plus vitamin D
カルシウムとビタミンD の併用は、脂質代謝の調整を介して、減量効果をもたらす。複数のRCTにより、カルシウム+ビタミンD3投与による成人での顕著な減量効果が示されている。
■ガルシニア・カンボジア
[学名]Garcinia cambogia [別名]Malabar tamarind、hydroxycitric acid(HCA)、
インディアンデイト、ゴラカ[英名]garcinia
ガルシニア・カンボジアの果実に含まれるヒドロキシクエン酸(HCA)には、食欲を調節し、脂肪の合成を抑制する働きがあるため、減量目的のサプリメントに利用されている。HCAの作用に関する研究では、HCAによるクエン酸開裂酵素活性の阻害、脂肪酸合成の抑制、肝グリコーゲン合成の増加、摂食量抑制および食欲抑制、エネルギー消費増大、血漿コレステロールの低下、過剰な炭水化物からの脂質合成の抑制といった作用機序が示唆された。
ガルシニアは、食事療法や運動療法に加えて、相補的に用いることで効果が期待される成分である。
ガルシニア・カンボジアの主成分であるヒドロキシクエン酸(HCA)を関与成分とした機能性表示食品では、「運動中の脂肪の燃焼を高める機能がある」といった表示が受理されている。
■キトサン
[英名]chitosan
キトサンとは、蟹や海老といった甲殻類の外殻を構成するムコ多糖類の1種であり、多糖類のキチンに由来するN-アセチルグルコサミンが部分的に脱アセチル化したポリマーである。抗肥満作用の作用機序としては、脂質の吸収阻害作用などが推察されている。
キトサンの抗肥満作用を検証したメタ分析では、15報のランダム化比較試験における合計1,219名の被験者が解析された結果、偽薬群に比べて、キトサン投与群での有意な体重減少作用、総コレステロール値の有意な低下、収縮期血圧の有意な低下、拡張期血圧の有意な低下が認められた。ただし、便中の脂肪排泄量に関しては両群間での有意差は示されなかった。また、有害事象の発生頻度には両群間での差は認められなかった。別のメタ解析では、 28 日間のキトサン投与後、有意な体重減少(2.38kg)が見いだされた。
キトサンを関与成分とした機能性表示食品では、「キトサンには、コレステロールの吸収を抑え、悪玉(LDL)コレステロールや総コレステロールを低下させる」という訴求が受理されている。
■ギムネマ
[学名]Gymnema sylvestre[別名]Merasingi,Gurmar[英名]gymnema
インドの伝統医療・アーユルヴェーダでは、糖尿病や肥満に効果のあるハーブとしてギムネマ葉抽出物が用いられてきた。有効成分のギムネマ酸は、小腸における炭水化物の消化・吸収を遅らせ、食後の過血糖を抑制する。予備的な臨床研究では、2型糖尿病患者における血糖コントロール改善作用が報告されている。
ギムネマ酸を関与成分とする機能性表示食品では、「食事の糖の吸収を抑え、食後の血糖値の上昇を抑える」といった表示が受理されている。
■共役リノール酸
[別名]異性化リノール酸[英名]CLA,conjugated linoleic acid
共役リノール酸(CLA)は、主に肉や乳製品に含まれるリノール酸に由来する必須オメガ6脂肪酸であり、共役二重結合をもつリノール酸の異性体の総称である。基礎研究では、CLAの体重減少作用(体脂肪量の減少、除脂肪体重の維持)がさまざまな動物モデルにおいて示されてきた。作用機序として、摂取エネルギーの減少作用、消費エネルギーの増大作用、脂肪酸化の促進、脂肪細胞のサイズの縮小、脂肪組織におけるアポトーシス促進を介した体脂肪の減少が示されている。 予備的な臨床試験では、肥満者における体組成の改善作用、抗肥満作用、脂質代謝・糖代謝改善、空腹感の軽減などの作用が報告されている。
機能性表示食品では、「エノキタケ由来脂肪酸(リノール酸、α-リノレン酸)には、肥満気味な方の、内臓脂肪を減少させ、体重の減少をサポートし、高めのBMIを低下させる」といった表示が受理されている。
■グアーガム
[英名] Guar Gum [学名] Cyamopsis tetragonolobus (グァー)
[和名] グァーガム/グアーガム
グアーガムは、インドやパキスタン原産の植物グァーの種子から得られる食物繊維であり、ガラクトマンナンを主成分とする高分子量ガラクトマンナン多糖類である。食品の増粘剤や乳化剤として広く利用されている。胃排出時間を遅延させることにより、体重減少効果をもたらすとされる。したがって、グアーガム含有サプリメントは、食物摂取量を減らし、満腹感を高めるために利用されるが、メタ解析では減量効果は明確ではなく、下痢や鼓腸といった有害事象が報告されている。
機能性表示食品では、「グアーガム分解物(食物繊維)は、糖の吸収をおだやかにし、食後血糖のピーク値を抑える」「グアーガム分解物(食物繊維)は腸に届いて有用菌(善玉菌)に働き、便秘気味の方の排便回数・排便量を増やし便通を改善」といった表示が受理されている。
■葛の花由来イソフラボン
[英名] Puerariae thomsonii flower extract
マメ科クズ(Pueraria lobate)の根は、生薬「葛根」の基原として日本薬局方に規定され、葛根湯などの漢方製剤に使用される。根以外の部位や同属異種植物に由来する根は食品への利用が可能である。その中で、葛の花抽出エキス(Puerariae thomsonii flower extract)は、テクトリゲニン類を主成分とし、脂質代謝異常の改善、肝保護作用、内臓脂肪蓄積抑制等の作用が見出されている。
機能性表示食品では、「葛の花由来イソフラボン(テクトリゲニン類として)には、肥満気味な方の、体重やお腹の脂肪(内臓脂肪と皮下脂肪)やウエスト周囲径を減らすのを助ける機能がある」といった表示が受理されている。
■グルコマンナン
[英名]Glucomannan[学名]Amorphophallus konjac(コンニャク)
グルコマンナンは、植物の球根や塊茎から大量に容易に抽出される水溶性多糖類の食物繊維である。グルコマンナンの多くは、コンニャクの塊茎から抽出される。グルコマンナン高分子量多糖類は、β-(1-4)-結合D-マンノースおよびD-グルコースモノマーで構成され、高い粘性の食物繊維であり、自重の50倍の水を吸収できる。
ヒトの唾液および膵臓のアミラーゼはβ-1,4グリコシド結合を切断できないため、グルコマンナンはほぼ消化されずに結腸に到達し、腸内微生物叢によって発酵される。グルコマンナンは、減量、血糖値や脂質異常症の改善作用が報告されている。
グルコマンナンによる減量の機序は、咀嚼回数の増加、胃内容排出時間の延長、食物の小腸滞留時間短縮、脂質吸収への作用などが考えられる。ヒト臨床試験での減量効果が報告されている。
■クロム
[英名]Chromium
クロムは必須微量ミネラルであり、食品に少量含まれている。米国では、サプリメントとしても利用されている。クロムは、糖代謝に必須であることから、クロムの不足は糖代謝異常を生じる。また、セロトニンの活性化に作用し、ドーパミン作動性シグナル伝達の下流を調節する。つまり、クロムは、神経伝達物質の調節を介して、満腹感やエネルギーホメオスタシスに影響を与える。クロムは、除脂肪体重を維持しつつ、減量効果を示す。
■桑の葉
[学名]Morus species(M. alba,M. nigra)[和名]桑(クワ)属
[英名]M. alba; white mulberry,M. nigra; black mulberry
桑の葉に存在する1-デオキシノジリマイシン1-deoxynojirimycinは、α-グルコシダーゼ阻害作用を有する。そのため、桑の葉(桑葉)を成分とするサプリメントが糖尿病に対して利用されている。また、伝統医療においても、桑の葉が糖尿病に用いられてきた。これまでに基礎研究や予備的な臨床試験では、糖質・炭水化物の吸収遅延による抗糖尿病作用が示唆されている。
桑の葉由来イミノシュガーを関与成分とする機能性表示食品では、食後血糖値の上昇抑制といった表示が受理されている。
■グリーンコーヒー豆
[英名]Green coffee extract[和名]生コーヒー豆エキス
グリーンコーヒー抽出物は、焙煎されていない生コーヒー豆に由来する。機能性食品成分として、ポリフェノールであるクロロゲン酸が含まれている。減量における生コーヒー抽出物の作用機序は、膵リパーゼ活性の抑制、脂肪細胞に対する脂肪分解、HMG-CoA還元酵素やアシル-CoA-コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT)および脂肪酸合成酵素(FASN)の阻害、肝臓におけるβ酸化の増加やPPAR-αの発現増加などである。
メタ解析では、4~12週間のグリーンコーヒー抽出物(180~200mg/日)投与後、有意な体重減少効果が見出された。
コーヒー生豆由来クロロゲン酸類を関与成分とする機能性表示食品では、食後の血糖値を緩やかにする機能、内臓脂肪・体重低下作用による高めBMI改善というダブルヘルスクレームが受理されている。
■黒ショウガエキス
[学名] Kaempferia parviflora
黒ショウガエキスに含まれるポリメトキシフラボン(特に5,7-ジメトキシフラボン)は、筋肉中のAMPK活性化を介して、基礎代謝向上や抗疲労、運動機能改善、生活習慣病予防などの作用が示されている。
機能性表示食品では、「ブラックジンジャー由来ポリメトキシフラボン」を関与成分として、「腹部の脂肪および血中の中性脂肪を減らす」「日常活動時のエネルギー代謝において脂肪を消費しやすくする機能がある」「中高年齢者の加齢により衰える歩行能力維持に役立つ」といった表示が受理されている。
■コレウス・フォルスコリ
[学名]Coleus forskohlii[和名]カリウスフォレスコリー, コレウス・フォルスコリ
コレウス・フォルスコリは、インドやネパールに自生するシソ科の植物であり、有効成分として、ジテルペン類のフォルスコリンforskolinが存在する。フォルスコリンは、平滑筋や心筋のアデニル酸シクラーゼを活性化し、c-AMP(cyclic AMP)の産生を増加させる。
フォルスコリンは、ホルモン感受性リパーゼを活性化する強力な cAMP 刺激因子であり、脂肪組織からの脂肪酸の放出を促進する。複数の臨床研究では、コレウス・フォルスコリによる減量効果が報告されている。
フォルスコリンを関与成分とする機能性表示食品では、「フォルスコリンには体脂肪率を減少させるのを助ける機能がある」といった表示が受理されている。
■シトラス・アランチウム
[学名]Citrus aurantium[別名]Seville orange,sour orange
[和名]ダイダイ(橙),キジツ,キコク,トウヒ[英名]bitter orange
シトラス・アランチウムは、アジア原産の柑橘類であり、中国伝統医学や漢方では、乾燥した果皮や未熟果実が消化機能不全等に対する薬用植物として利用されてきた。有効成分として、果皮や果実にはシネフリンやオクトパミンが存在する。いずれもエピネフリン様作用を有する。
米国では、シトラス・アランチウムがエフェドラ(麻黄)に代わる、「エフェドラ・フリー」の減量用サプリメントとして利用されるようになった。複数の臨床研究により、減量効果や基礎代謝率亢進が報告されている。安全性に関して、C. aurantium由来シネフリンを、1日最大98mgを60日間服用しても有害事象は認められなかった。
■白インゲン豆
[英名]common bean,kidney bean,white kidney bean [学名]Phaseolus vulgaris
[和名]白隠元豆 [別名]ファセオリン
白インゲン豆の抽出物には、膵α-アミラーゼ阻害作用を示す成分(phaseolamin)を含むため,炭水化物の吸収遅延による抗肥満作用や抗糖尿病作用が示唆されている。
複数の臨床試験により、白インゲン豆摂取後のグルコース吸収の用量依存的な減少が示されている。また、1.5~6g/日の白インゲン豆抽出物の投与による体重減少効果が報告されている。例えば、肥満者60人を対象にした臨床研究では、偽薬群に比べて、白インゲン豆エキス摂取群では、体脂肪量、体重、ウエスト周囲長の有意な減少が見出された。
機能性表示食品では、インゲン豆由来ファセオラミンが関与成分として受理されている。
■フコキサンチン
[英名]Fucoxanthin
フコキサンチンは、褐藻類に含まれるカロテノイドの一種である。フコキサンチンは、血漿中および肝臓中のトリグリセリド濃度を低下させる。また、アセチル-CoAカルボキシラーゼの発現抑制、マロニル-CoA形成、脂肪酸合成酵素の発現、飽和脂肪酸合成の低下を介して、抗肥満作用を示す。
フコキサンチンは、肝臓でのLDL受容体の発現を抑制し、脂肪細胞でのC/EBPα、PPAR-γ、および SREBP-1c遺伝子の発現を抑制する。また、フコキサンチンは白色脂肪細胞の UCP-1発現を促進し、エネルギー消費と熱賛成を増加させる。
閉経前の肥満女性151人を対象に、海藻抽出物300mg(フコキサンチン2.4mg)とザクロ種子抽出物300 mg(プニカ酸)を含むサプリメント(ザンシゲンXanthigen)を16週間投与した臨床研究では、体重、体脂肪、腹囲の有意な減少が認められた。さらに、2.4mg以上のフコキサンチンを摂取した群は、プラセボ群と比べて、安静時エネルギー消費量の増加が見出された。
機能性表示食品では、「微細藻類由来フコキサンチンには肥満気味の方のおなかの脂肪を減らす機能」という表示が受理されている。
■βグルカン
[英名]β-glucan
βグルカン(β-glucan)は、D-グルコースに由来する水溶性食物繊維である。大麦などに含まれる。食欲抑制作用及び血糖値の上昇抑制作用を介した減量効果が知られている。これらの作用には、腸内細菌の働きが関与する。
グルカンは、主に穀物胚乳の細胞壁に存在し、大麦などに豊富に含まれる。また、キノコの細胞壁の主要な構造成分である。 β-グルカンは難消化性であり、腸内細菌叢により発酵されることから、プレバイオティクスの役割を果たしている。βグルカンの減量効果は、グルコース吸収抑制作用により、満腹感を高める水溶性繊維であることによる。
機能性表示食品としては、大麦β-グルカンを関与成分として、血糖上昇抑制作用を訴求する製品が上市されている。
■ラクトフェリン
[英名]lactoferrin
ラクトフェリンは、トランスフェリンファミリーに属する糖タンパク質であり、ホエイなどの哺乳類の乳汁や分泌液に含まれている。特に、ヒトの初乳に多く含まれる。抗菌・抗真菌、抗ウイルス作用、抗炎症作用や抗酸化作用、免疫調節作用といった多彩な作用を有する。また、抗肥満作用や精神的ストレス軽減といった作用も見出されている。
機能性表示食品では、ラクトフェリンを関与成分として、「肥満気味な方の内臓脂肪を減らすのを助け、高めのBMIの改善に役立つ」といった表示が受理されている。
■ラズベリーケトン
[英名]Raspberry ketones
ラズベリーケトン[4-(4-hydroxyphenyl)-2-butanone]は、レッドラズベリーやルバーブなどに含まれる天然の芳香物質である。基礎研究では、脂肪酸酸化の亢進、脂質蓄積の減少、アディポネクチン分泌促進が認められている。また、ラズベリーケトンは、脂肪合成にかかわる遺伝子の発現を抑制する。また、非臨床研究では、高脂肪食負荷時に、ラズベリーケトンによる体重および内臓脂肪の増加を抑制することが示された。このメカニズムとして、褐色および白色脂肪組織の刺激と膵臓リパーゼ活性阻害が考えられている。
■緑茶
[英名] Green tea[学名]Camellia sinensis
緑茶は、Camellia sinensisの未発酵 (未酸化) の葉を蒸して生産される。カフェインが含まれており、食欲抑制や熱発生刺激に関与する。カテキン類は、緑茶の渋み成分であり、ポリフェノール類に属する。ノルエピネフリンの分解を阻害し、消費エネルギーの増加を生じる。
ランダム化比較試験により、緑茶抽出物による減量効果が示されている。
茶カテキンあるいはガレート型カテキンを関与成分とする機能性表示食品では、お腹の脂肪を減らす、高めのBMIを減少させる、といった表示や、コレステロールや中性脂肪値への訴求が受理されている。また、特定保健用食品(トクホ)では、内臓脂肪を減らすという訴求が認められている。
おわりに
肥満の改善や予防には、適切な食事と運動による生活習慣の見直しが最も大切です。食事療法は、低エネルギー低脂肪食が第一選択であり、糖質制限食も選択肢となります。後者では、糖質の摂取量を1日130g程度とし、高発酵性の食物繊維も摂取します。
また、肥満関連遺伝子変異を測定し、疾病感受性を知ることも容易に行うことができます。さらに、フォーミュラ食(代替食、置き換え食)は、肥満対策における食事療法として、セルフケアから官民連携での取り組みとして、広く利用されています。
一方、現時点のエビデンスを俯瞰するとき、肥満に対するサプリメント・機能性食品は、統合医療的アプローチにおいて、食事療法や運動療法と合わせて、補完的に利活用できると考えられます。
文 献
・消費者庁
・日本肥満学会:肥満症診療ガイドライン2022
・蒲原聖可:「肥満の予防および補完療法としての機能性食品の臨床的意義―サプリメント・健康食品の現状と課題―」 肥満研究.2016;22:47-59
・内閣府・消費者委員会:消費者の「健康食品」の利用に関する実態調査(2012年5月)
・蒲原聖可:EBMサプリメント事典. 医学出版社、東京、2008.
・蒲原聖可:必携サプリメント・健康食品ハンドブック. 新興医学出版社、東京、2009.
・蒲原聖可:ヘルシーエイジングに役立つサプリメント・健康食品.医学と看護社、東京、2013.
・蒲原聖可:サプリメントと医薬品の相互作用ハンドブック―機能性食品の適正使用情報. 医学出版社、東京、2015.
2023年05月 公開