新型コロナウイルスービタミンCによるCOVID-19対策
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染を原因とするCOVID-19が、パンデミック(世界的大流行)となっています。WHOによると、2020年11月30日現在、220の国と地域で、6千万人以上(61,869,330人)の患者が確認され、140万人以上(1,448,896人)が死亡しました。
COVID-19は、すでに感染が世界規模で拡大したこと、不顕性感染となることなど、ウイルスの性質を考えると、根絶や封じ込めは困難と考えられます。ウィズ・コロナとなった今日、COVID-19対策として、? 原因ウイルス(SARS-CoV-2)への接触機会を減らす、? 私たちの身体の抵抗力を高める、2つが大切です。
現在、COVID-19対策として、ウイルスへの暴露機会を減らす予防策(マスク着用や手指消毒、3密回避など)が推奨されています。
一方、ヒトの側でのウイルス感染への抵抗性を高める対策も大切です。すなわち、免疫能を含めた生体防御機構の維持・亢進によるウイルス感染への対策であり、具体的には、適切な食事・運動・睡眠であり、機能性食品成分も注目されています。
ビタミンやミネラルといった必須微量栄養素は、免疫能の維持に文字どおり必須です。また、オメガ3系必須脂肪酸、プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌)、ハーブ類も、生体防御機構での働きから、COVID-19対策としての有用性が示唆されています。 新型コロナウイルス―サプリメント・機能性食品の使い方
例えば、ビタミンDは、免疫賦活作用や抗ウイルス作用、抗炎症作用を有しており、COVID-19の感染リスク低減および軽症者の重症化予防の働きが期待されています。すでに、COVID-19の罹患率や死亡率、重症度と、ビタミンDとの関係が報告されています。
新型コロナウイルス ‐ ビタミンDによるCOVID-19対策
本稿では、COVID-19の感染予防に関するビタミンCのエビデンスを紹介します。
ビタミンCは免疫能の維持に必須の栄養素
1. ビタミンCは全身免疫の維持に必須
ビタミンCは、抗酸化作用に加えて、免疫調節作用を有しており、自然免疫と獲得免疫のいずれにおいても重要な役割を果たしています。ビタミンCは、リンパ球やマクロファージなどの白血球に高濃度に含まれており、感染症にかかった時には、炎症反応の亢進と代謝需要の増加により、血中ビタミンC濃度が低下します。
2. 重症感染症ではビタミンCが枯渇
ビタミンCは、COVID-19の感染予防だけではなく、重症化予防のためにも重要です。感染症にかかっているときは、ビタミンCが減少し、ビタミンCの必要量が増加します。とくに、重症感染症では、ビタミンCのターンオーバー亢進によりビタミンCが消費され、ビタミンCが低下し、枯渇が生じます。そこで、COVID-19重症例の治療として、高用量での静脈内投与が行われることもあります。
ビタミンCが呼吸器感染症を予防
1.ビタミンCが風邪を早く治す
これまでの臨床試験では、一貫して、ビタミンC投与による普通感冒(風邪)の罹病期間短縮および重症度の軽減作用が示されています。29報の臨床試験の参加者11,306人を対象にした解析では、1日1,000mg(1g)のビタミンCサプリメントにより、成人では8%、小児では14%の罹病期間の短縮効果が見出されました。
また、肺炎リスクに対するビタミンC投与の有用性も示唆されています。
なお、いくつかの大規模な研究では、ビタミンCによる効果は検出できませんでした。この理由として、被験者の比較的栄養状態が良好であったことや背景因子の調整に限界があることが考えられます。
一方、対象者を限定した比較的小規模な研究では、ビタミンCの有用性が見出されています。例えば、高度の急性運動負荷のある被験者を対象とした3報では、普通感冒の罹患率が平均50%減少しました。また、英国男性を対象にした4報の研究では、ビタミンC投与により、風邪が平均30%減少しました。英国では、ビタミンCの食事からの摂取量が少ないとされ、ビタミンCサプリメントの効果が検出されやすいと考えられます。
2. 1,000mgのビタミンCが風邪による欠勤を14〜21%減少
一般に、1日1,000mg(1g)以上のビタミンCサプリメントの習慣的な摂取により、普通感冒(風邪)の罹病期間は顕著に短縮されます。
数百人の被験者を対象にしたビタミンCサプリメントによる風邪の罹病期間及び重症度への作用を検証した4報では、罹病期間の短縮傾向は5%ほどでした。そのうちの2報では、普通感冒のエピソードあたりの学校あるいは職場の欠席が14〜21%減少したことから、臨床的には有意な効果と判断できます。
3. ビタミンCサプリメントが高齢者の肺炎を減少
ビタミンCサプリメントによる介入試験3報では、肺炎リスクが80%以上、減少しました。 また、英国の平均年齢80歳の高齢入院患者57名(肺炎あるいは気管支炎の患者)を対象にした二重盲検ランダム化比較試験では、ビタミンC(200mg/日)投与により呼吸機能改善作用が示されました。
COVID-19とビタミンC
1. ビタミンCの抗コロナウイルス作用
基礎研究では、ビタミンCの抗コロナウイルス作用が報告されています。例えば、ニワトリ胚気管臓器培養細胞系では、ビタミンC投与により、コロナウイルス感染に対する抵抗性が亢進しました。
また、動物実験では、ビタミンCが、さまざまな細菌やウイルス感染のリスクを減らすことが示されています。例えば、ブロイラーにおいて、ビタミンC投与により、鳥コロナウイルスによる感染性気管支炎のリスク低減作用が示されました。
2. COVID-19の特徴
COVID-19では、炎症惹起サイトカイン類の産生亢進、CRP亢進が認められ、肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、心不全、敗血症などのリスクが高くなります。
COVID-19の重症化リスクとして、心血管疾患、慢性呼吸器疾患、糖尿病、高血圧、肥満などの基礎疾患が知られています。
3. COVID-19の重症化メカニズム
COVID-19の重症化例では、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や全身性炎症反応症候群(SIRS)が認められます。重症化機序として、当初、SARS-CoV-2感染における免疫の過剰反応によるサイトカイン・ストームの関与が注目されました。その後、COVID-19重症患者での炎症マーカーの検討などにより、現在、COVID-19重症化のメカニズムとして、原因ウイルス(SARS-CoV-2)による受容体(ACE2)の抑制を介した血管内皮障害と血栓形成による微小循環不全の関与があり、血栓症を生じ多臓器不全に陥る機序が考えられています。
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、COVID-19の重症化例で認められます。ARDSでは、フリーラジカル産生による酸化ストレスの亢進やサイトカイン類の過剰放出によるサイトカイン・ストームが生じ、細胞や組織の障害、血管内皮障害と血栓形成による微小循環不全から臓器機能不全が引き起こされ、致死的となります。
COVID-19入院患者のうち26%がARDSやショックなどの合併症のためにICUで加療を受けています。
4. COVID-19の重症者はビタミンC欠乏
スペインにおいて、COVID-19での重症ICU患者18人を対象に、血中ビタミンCを測定したところ、17人では検出限界(1.5mg/L)未満、1人では低値(2.4mg/L)でした(一般集団におけるビタミンCの基準値は5mg/L以上)。
また、米国からの報告では、COVID-19重症例21人(平均年齢61歳、21人中生存は11人)を解析したところ、血中ビタミンCとビタミンDが顕著に低値でした。ビタミンCは、生存者11人と死亡者10人の比較では、顕著な差が認められました。
COVID-19の重症者において、ビタミンCが欠乏する理由は、炎症反応の亢進による代謝消費の増加、糸球体の濾過量の増加、消化管吸収の低下などが考えられます。
ビタミンCの静脈投与により、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)におけるサイトカイン・ストームの抑制効果が示されています。また、高濃度ビタミンC静注によるARDSの改善などの有用性を示した症例も数多く報告されています。
5. 患者に対するビタミンCの治療効果
重症患者ではビタミンC値が劇的に低下しています。また、ビタミンCの投与による有効性も知られています。
例えば、ICU入院患者1,766人を対象とした12報の解析では、ビタミンC投与がICU滞在期間を8%短縮することが示されました。また、8報の解析では、最も長期間の人工呼吸を必要とした患者において、ビタミンCが人工呼吸器の持続時間を短縮することが見出されました。
さらに、米国でのICU患者を対象に、ビタミンCとビタミンE(αトコフェロール)を標準治療に併用した群(301人)と、標準治療単独群(294人)を比較した臨床研究では、臓器不全や重症度、死亡率低下といった指標で、抗酸化サプリメント投与による好影響が示されました。
2019年に、米国で発表された敗血症関連ARDS患者167人を対象とした臨床試験では、1日15g/日のビタミンCの静脈投与を4日間実施することで死亡率が低下しました。
6. ビタミンCを静脈投与した症例報告
COVID-19に対して、ビタミンCの静脈内投与を実施した症例シリーズが米国から報告されています。ビタミンC静注が実施されたCOVID-19患者17例(平均年齢64歳、BMI 32.7)のデータが解析された結果、ビタミンC静注後に、炎症や血栓形成にかかわる指標が有意に低下していました。
また、ビタミンC静注に関連する有害事象は認めませんでした。したがって、高リスク群でのCOVID-19重症例において、ビタミンC静注による補完療法としての有用性が示唆されます。また、今後、COVID-19の重症例に対する治療としての高濃度ビタミンC療法の有用性の検証が期待されます。
なお、2020年2月に、中国の武漢において、高濃度ビタミンCの静脈投与によるCOVID-19重症例に対する臨床試験が計画されましたが、患者数の減少により被験者が集まらず、試験が中止となっています。
7. COVID-19に関する臨床試験
現在、ビタミンCを用いた臨床試験が進行しています。これらの臨床試験は、次の5種類に分類できます。 ・COVID-19重症例に対するビタミンC静注療法 ・COVID-19の治療としてのビタミンCサプリメント経口投与 ・COVID-19の予防のためのビタミンCサプリメント経口投与 ・標準治療としてビタミンC投与の試験 ・ビタミンCを偽薬群として投与 ※詳細は参考資料に掲載
ビタミンCの食事摂取基準
日本人の食事摂取基準2020年版でのビタミンCの推奨量は、男女とも12歳以上で1日あたり100mgです。1日100mgのビタミンCの摂取は、健常者での血漿レベルを正常範囲内に維持できます。
一方、重篤な患者において、血漿中ビタミンC濃度を正常範囲内にまで上昇させるためには、1〜4g/日の高用量が必要と考えられています。
ビタミンCサプリメントの安全性・用量
ビタミンCサプリメントは、高い安全性が示されています。免疫能の維持など保健機能のための一般的な用量は、1日あたり1,000〜2,000mgです。
ビタミンCは、安全で安価な必須栄養素であることから、ビタミンDサプリメントなど他の補完的な栄養療法とともに、COVID-19の重症化リスク低減としての選択肢です。
おわりに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の現状、つまり、感染の世界的な拡大や不顕性感染の存在を考えると、ウイルスの根絶は現実的ではありません。また、治療薬に関しては、副作用のリスクや耐性ウイルスの発生リスクがあります。さらに、ワクチンについては、有効性や持続性、摂取の優先順位や安定供給、副反応などの課題が生じます。
本稿で示したように、ビタミンCの免疫調節作用や抗ウイルス作用は確立しており、ビタミンCの不足や欠乏は呼吸器感染症のリスクです。また、COVID-19におけるビタミンC投与の補完療法としての臨床的意義も示唆されています。
さらに、ビタミンCサプリメントは、これまでのエビデンスにより、高い安全性が示されています。これは、医療の原則であるprimum non nocere(first, do no harm、「まず、害を与えてはならない」)です。
COVID-19対策において、ビタミンやミネラルといったサプリメントは、治療目的ではなく、免疫能を維持し、感染に対する抵抗性を高める補完療法としての位置付けとなります。
ウィズ・コロナとなった今日、公衆衛生の視点から、新型コロナウイルス感染への予防およびCOVID-19の重症化予防として、セルフケアにおけるビタミンCサプリメントの活用も選択肢となります。
参考資料
新型コロナウイルス―サプリメント・機能性食品の使い方
新型コロナウイルス ‐ ビタミンDによるCOVID-19対策
参考文献
蒲原聖可.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防および治療に関するビタミンCの臨床エビデンス.Clinical and Functional Nutriology 12:334-342, 20202020年11月 公開