2023年02月28日
「受療行動調査」にみる生活習慣病の自覚症状の有無 ~生活習慣病は初診時に「自覚症状がない」割合が高い~
キーワード: 生活習慣 疾患 健診・保健指導 厚生労働省の調査
「受療行動調査」にみる生活習慣病の自覚症状の有無
外来患者が医療機関の来院の目的をみると、全体的には43.0%が「定期的な診察と薬の処方を受ける」で占められていました。2位は「症状を診てもらう」が20.1%であり、ほぼ同率の3位が「検査を受ける、または検査結果を聞く」で20.0%、以下、「予定された注射や処置(手術、ガーゼ交換など)」が6.9%、「リハビリテーション」が6.4%、「その他」4.2%です。
主傷病別での来院目的をみますと(図1)、いずれも「定期的な診察と薬の処方を受ける」ための受診の割合が多いことがわかります。生活習慣病に着目してみますと、高血圧性疾患ではその割合が76.0%、糖尿病では75.7%と4人に3人以上に上り、脳血管疾患も60.5%、心疾患(高血圧性のものを除く)も54.%と、全体平均より高値でした。
他方、新生物(腫瘍)の場合、「検査を受ける、または検査結果を聞く」が39.3%と最多でした。
外来患者の自覚症状についてみると(図2)、67.0%と3人2人は「自覚症状があった」と回答したものの、一方で4人に1人以上に相当する27.8%は「自覚症状がなかった」と回答しました。
「自覚症状がなかった」にもかかわらず受診した理由としては「健康診断(人間ドックを含む)で指摘された」が最多で44.2%を占め、次いで「他の医療機関等で受診をすすめられた」が24.4%であり、何らかの検査値の異常や病気の存在が疑われる他覚所見を指摘されて、受診を決めた人が多いようです。なお、3位以降には「病気ではないかと不安に思った」が10.7%、「家族・友人・知人に受診をすすめられた」7.5%などが挙げられました。
主要傷病別にみると、生活習慣病関連では受診時に「自覚症状がなかった」人の割合が高いことがわかります。図3は、自覚症状がなかった主な傷病を上位より示しています。生活習慣病では、糖尿病ではその割合が45.8%とほぼ2人に1人近くに上り、高血圧性疾患も33.2%と3人に1人が該当します。
なお、傷病分類別にみて「自覚症状がなかった」人の割合が最も高い傷病は「気管、気管支及び肺の悪性新生物」で66.0%、2位は「前立腺の悪性新生物」で65.0%、3位は「ウイルス性肝炎」の64.0%でした。
図4は、自覚症状がなかったが受診した理由として、もっとも割合の高かった健康診断で指摘された主傷病を上位順に示しています。「乳房」「胃」「前立腺」などの悪性腫瘍の割合が高く、次いで、生活習慣病である高血圧と糖尿病がそれぞれ57.6%、56.5%、でした。全体として、自覚症状がなく、健康診断で指摘された上位の疾患には、悪性腫瘍と生活習慣病が占めているという結果でした。
自覚症状があった場合、その発現から「1~3日」での受診が最多で17.6%を占め、一方自覚症状がない場合は、受診すべき理由が生じてから「1週間~1カ月未満」での受診が最多で25.0%を占めていました。
症状の発現または受診すべき理由が生じてから、受診までの期間が1週間以上だった人にその理由を尋ねたところ(図5)、症状のあった人では「まず様子をみようと思った」との回答が、ほぼ3人に2人にあたる65.4%の人から挙げられました。一方、自覚症状がない人では、「医療機関の都合(予約が取れないなど)」が30.6%と「時間の都合がつかなかった」が29.7%で、ほぼ同率で3割ずつを占め、3位が「まず様子をみようと思った」23.8%でした。
「受療行動調査」のその他の主な結果について
病院を選んだ理由のトップは、外来(39.2%)、入院(55.7%)ともに「医師による紹介」でした(図6)。2位以降は、外来は「交通の便がよい」(27.5%)、「専門性が高い医療を提供している」(26.9%)、入院では「専門性が高い医療を提供している」(26.8%)、「医師や看護師が親切」(22.6%)でした。
受診に際して「予約をした」割合は77.7%であり、これは平成26年調査の68.2%、同29年調査の71.4%と比較して増加しています(図7)。
医療機関への不満として挙げられることの多い「待ち時間」については、「15分未満」が最多で28.0%、次いで「15~30未満」が25.7%、「30分~1時間未満」が20.9%でした。「15分未満」の割合は、平成26年が26.2%、29年が27.1%であり、わずかながら増加してきています。
このような改善も関連しているのか、病院に対する全体的な満足度も経年的に上昇していることが示されました。平成8年調査で外来患者のうち「満足」と回答したのは48.1%と半数未満でしたが、令和2年調査では64.7%まで上昇。入院患者でもその割合は53.7%から69.4%へと上昇しています(図8)。
受療行動調査からみる医療機関の役割
受療行動調査から、日本の医療機関の果たしている役割が見えてきます。
医療機関を受診するとすれば、「○○が痛い」(自覚症状)とか、「○○が動きにくい」(他覚症状)など、自分の判断で受診すると思われがちです。しかしこの調査から、27.8%は「自覚症状がなかった」と回答していました(図2)。そして「自覚症状がなかった」にもかかわらず受診した理由としては「健康診断(人間ドックを含む)で指摘された」が最多で44.2%を占めていました。
「自覚症状がなかった」人の割合が最も高い傷病は「気管、気管支及び肺の悪性新生物」で66.0%、2位は「前立腺の悪性新生物」で65.0%、3位は「ウイルス性肝炎」の64.0%でした(図3)。
健康診断にはがんを発見する「がん検診」、生活習慣病を発見する「特定健診」、幅広くチェックする「人間ドック」がありますが、これらの健康診断によって異常が発見されたものと思われます(図4)
生活習慣病は、不適切な生活習慣(過食や運動不足)によって生じる高血圧や高尿酸血症、糖尿病などをひっくるめた概念です。これらはよほどの悪化しない限り自覚症状(高血圧によるめまい、高尿酸血症による痛風という関節痛、糖尿病による感覚障害)は現れません。このため、健康診断があり、その受診結果で生活習慣病が発見されて医療機関を受診しているという結果です。
医療機関側の状況をみると、全体的な満足度が年々上昇していることがわかりました(図8)。昭和30~40年代に建てられた病院は、この10年ほど建て替えラッシュになっており、最新設備が導入されるようになっています。また予約制をとることで待ち時間を減らす仕組みがとられるようになってきています。とはいえ30分以上の待ち時間を要するケースが半数を占め(図7)、まだ改善の余地がありそうです。
和田 高士(東京慈恵会医科大学 客員教授、日本生活習慣病予防協会 副理事長)
出 典
■厚生労働省「令和2(2020)年受療行動調査(確定数)の概況」 ■政府の統計の総合窓口e-Stat「受療行動調査 令和2年」