2022年12月28日
くるみの摂取が加齢に伴う健康増進の「懸け橋」となることが最新研究により判明
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(カリフォルニア くるみ協会)
若年成人における冠動脈疾患の進展リスクに関する研究(CARDIA)
新たな知見は、心血管疾患(CVD)発症の危険因子に関する経時的変化の調査を目的とした長期的研究「若年成人における冠動脈疾患の進展リスクに関する研究(CARDIA)」から得られたものです1。
本研究は現在も進行中で、米国国立衛生研究所(NIH)の国立心肺血液研究所の助成を受けており、心臓の健康に良いとされるくるみをひとつかみ程度、頻繁に食事に加えるという単純な行為が、その後の人生において健康を促進する生活習慣への「懸け橋」となりうることを示唆する長期研究の1つとなります。さらに研究で示された知見は、くるみは青年期から中年期にかけて摂取すると、CVDのさまざまな危険因子を改善する手軽で身近な食品選択肢となる可能性を高めるものとなっています。
同研究が発表されたNutrition, Metabolism & Cardiovascular Diseases 誌において2、ミネソタ大学公衆衛生大学院の研究者らは、これらの結果は、くるみに含まれる栄養素の特有の組み合わせと、それらの健康効果によるものである可能性を指摘しています。
くるみは、植物性オメガ3脂肪酸であるα-リノレン酸(1オンス=約 28g 中に 2.5g)を豊富に含む唯一の木の実です。このα-リノレン酸が心臓や脳の健康、健康的な加齢において一定の役割を果たす可能性が、複数の研究で示されています3,4)。一食分である、ひとつかみ程度のくるみ(約28g)には、タンパク質(4g)食物繊維(2)、マグネシウム(45mg)など、健康全般をサポートする多様な重要栄養素に加え、ポリフェノールをはじめとするさまざまな抗酸化物質も含まれています。
ミネソタ大学公衆衛生大学院疫学・地域保健部門の教授で、CARDIAの主任研究者でもあるLyn M.Steffen博士(PhD, MPH, RD)は、「くるみを食べている人、とりわけ、心疾患、肥満、糖尿病などの慢性疾患のリスクが高まっていく青年期から中年期にかけてくるみを食べ始めた人は、食事の質が向上するといった健康への良い影響とともに、特有の身体表現型を持っているようです」と述べています。
研究の概要
カリフォルニアくるみ協会(CWC)から一部助成を得て行われたこの観察縦断研究では、研究グループはCARDIA研究が始まった1985~86 年にかけて、アラバマ州バーミンガム、イリノイ州シカゴ、ミネソタ州ミネアポリス、カリフォルニア州オークランドの 4つのフィールドセンターのいずれかにおいて、18~30歳の健康な黒人と白人の男女3,023人を対象に食事と健康に関する情報を収集し、解析を行いました。
研究期間中に3回にわたり(ベースライン、7年目、20年目)、自己申告による食事歴を調査しました。また、30年にわたる研究期間中、複数回の検査で身体・臨床的な測定を行いました。食事歴から、参加者を「くるみ摂取者」「その他のナッツ類の摂取者」「ナッツ類非摂取者」に分類し、くるみ摂取者352人、その他のナッツ類の摂取者2,494人、ナッツ類非摂取者177人を対象に、食事内容、喫煙、身体組成、血圧、血漿脂質(トリグリセリドなど)、空腹時血糖値、インスリン濃度といった CVD の危険因子との関係を検討しました。研究期間中の、くるみ摂取者におけるくるみの平均摂取量は1日当たり約21g、その他のナッツ類の摂取者のナッツ類の平均摂取量は同約42.5gでした。
Steffen博士は、「調査現場が地理的にかなり多様であり、研究対象者も多様でした。これらの黒人と白人の男女を 30 年間にわたり追跡することで、青年期に自由な生活環境で決定された生活習慣が中年期の健康に及ぼす影響に関する研究の類例のない窓口となりました」と述べています。
これらの研究結果は日本でも意義深いものとなっています。厚生労働省の2020年の患者調査によると、日本では心疾患(高血圧性を除く)はがんに続き 2 番目に多い死亡原因であり、全死亡数の15.0%を占めており、心疾患による死亡の内訳としては、心不全が41%、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患が33%となっています5。心不全や虚血性心疾患は、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化症など)が原因となりますが、食生活や喫煙などの生活習慣の改善により予防することが可能です。国内の心疾患の総患者数は、同調査では 305.5万人と推計されています6。
研究結果のまとめ
今回の研究からは、以下の結果が報告されました。
1.30 年後の心血管疾患(CVD)リスクに関する身体・臨床指標: ① くるみ摂取者は、他のナッツ類の摂取者やナッツ類非摂取者よりも自己申告 による身体活動量スコアが高かった。 ② くるみ摂取者のCVDリスクプロファイルは、他のナッツ類の摂取者よりも良 好(低値)であった。 BMI、ウエスト周囲径(胴囲)、血圧、血中トリグリセリド濃度 ③ くるみ摂取者は、他のナッツ類の摂取者およびナッツ類非摂取者よりも、研 究期間中の体重増加が少なく、肥満者に分類された人数が少なかった。 ④ ナッツ類非摂取者と比較して、くるみ摂取者は空腹時血糖値が有意に低く、 他のナッツ類の摂取者はLDL-コレステロール値が高かった。
2.20年後の食事の質を示すマーカー: ① 青年期の食事にくるみが含まれていると、他のナッツ類の摂取者やナッツ類 非摂取者よりも食事の質の総スコア(Healthy Eating Index 2015)が 高くなっていた。 ② くるみ摂取者は、他のナッツ類の摂取者やナッツ類非摂取者と比べて自己申 告による以下の一日の摂取量が多かった。なかでも「米国人のための 食生活指針(2015-2020 Dietary Guidelines for Americans)」7*にまと められている摂取量の少ない栄養素や公衆衛生上重要な食品群の摂取量が有 意に多かった。 〔他の群よりも摂取量が多かったもの(単位)〕 多価不飽和脂肪(% kcal)、γ-リノレン酸(GLA)+α-リノレン酸(ALA)(g)、食 物繊維*(g)、ビタミンB6(mg)、マグネシウム(mg)、ビタミンE(mg)、カ リウム(mg)、全粒穀物*(摂取量/日)、果物*(摂取量/日)、野菜*(摂取量 /日)、豆類*(摂取量/日)、魚*(摂取量/日)、たんぱく質(摂取量/日) 〔他の群よりも摂取量が少なかったもの(単位)〕 飽和脂肪酸(% kcal)、添加糖質(% kcal)、精製穀物製品(摂取量/日)、赤身 肉(摂取量/日)、加工赤身肉(摂取量/日)
Steffen 博士は、「ナッツ類摂取者の食事の質が高いことが示されましたが、くるみ摂取者における CVD リスクプロファイルは、全体的な食事の質を考慮しても、他のグループよりも良好であるように思えます。くるみ摂取者の全体的な食事パターンにおける、驚くほど健全な変化は、くるみが人々が生涯を通じて健康的な栄養習慣と生活習慣を形成していくための懸け橋、いわゆるキャリアフードとして作用する可能性を示すものです」と語っています。
これらの結果は前向きなものであり、くるみ摂取による健康効果に関する過去の CARDIA 研究の結果を裏付けるものですが1、今回の観察研究の妥当性を確認するには、異なる母集団や環境下でのランダム化比較試験が必要となります。なぜなら、観察研究では原因と結果に関する結論を裏付けることはできないためです。
加えて、この研究における CVD の危険因子に関係するコレステロールと脂質に関連する転帰には、これまでのランダム化比較試験8,9 の結果と矛盾する点がいくつかあります。 これは、介入期間(例:数カ月~30年)やナッツ類の摂取量など、研究デザインの違いに起因する可能性があります。
最後に、研究者らはデータベ ース上で、くるみ以外のナッツ類の分類・特定を行っていないため、この結果は他のナッツ類にメリットがないことを示すものではないとしています。この長期研究は、毎日の食事にひとつかみ程度のくるみを加えること、そしてそうした習慣を人生の早い段階で取り入れると全体的な食事の質の向上につながりうることを示唆するもので、くるみはあらゆる食事の機会にフィットする、心臓の健康に良い「キャリアフード」となり得ることを示すものです。
本研究へのコメント
本研究について、栄養学や動脈硬化が専門の吉田 博先生*は、かねてより様々な健康効果が期待されているクルミ摂取が、30年という長期追跡研究から、健康的な食事であることが示されたと評価しています。
クルミはn-3系不飽和脂肪酸、抗酸化物質(ポリフェノールなど)が豊富に含まれるほか、ビタミン、ミネラル、たんぱく質や食物繊維など多様な栄養成分が含まれていることから、血清脂質の異常や血糖高値あるいは肥満・メタボリックシンドロームなどの改善など、かねてより様々な健康効果の発揮が期待されています。
CARDIA研究に登録された18~30歳の健康な若年成人約3,000人を30年間追跡し、クルミなどのナッツの摂取と心血管疾患(CVD)の危険因子との関連を検討した結果、ナッツ摂取群およびナッツ類非摂取群と比べて、クルミ摂取群では身体活動スコアが高かったのです。また、他のナッツ類の摂取群と比べてBMI、体重増加量、ウエスト周囲長、ウエスト周囲長の変化量、収縮期および拡張期血圧、腹部肥満の該当率、トリグリセライド値などが低く、ナッツ類非摂取群と比べて空腹時血糖値の有意な低下が認められました。 このように、クルミ摂取は食事の質と身体活動度が高くCVDリスクプロファイルが良好であることから、米国食事ガイドライン(2020~2025年版)で推奨されている「健康的な食事にクルミをはじめとしたナッツを取り入れること」を本研究の結果は支持しています。
*東京慈恵会医科大学附属柏病院院長・東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座 教授・大学院代謝栄養内科学 教授、一般社団法人日本未病学会理事長、公益社団法人日本栄養・食糧学会代表理事・会長参考資料
- Steffen LM, Yi SY, Duprez D, Zhou X, Shikany JM, Jacobs DR Jr. Walnut consumption and cardiac phenotypes: The Coronary Artery Risk Development in Young Adults (CARDIA) study. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2021;31(1):95-101.
- Yi SY, et al. Association of nut consumption with CVD risk factors in young to middle-aged adults: The Coronary Artery Risk Development in Young Adults (CARDIA) study [published online ahead of print July 30, 2022]. Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases.doi:10.1016/j.numecd.2022.07.013.
- Sala-Vila A, et al. Impact of α-linolenic acid, the vegetable ω-3 fatty acid, on cardiovascular disease and cognition [published online ahead of print February 16, 2022]. Advances in Nutrition. doi:10.1093/advances/nmac016.
- Sala-Vila A, et al. Effect of a 2-year diet intervention with walnuts on cognitive decline. The Walnuts And Healthy Aging (WAHA) study: A randomized controlled trial. Am J Clin Nut. 2020;111(3):590-600.
- 厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況」
- 厚生労働省「令和2年(2020)患者調査の概況」
- U.S. Department of Agriculture and U.S. Department of Health and Human Services. Dietary Guidelines for Americans, 2020-2025. 9th Edition. December 2020. Available at DietaryGuidelines.gov.
- Rajaram S, Cofán M, Sala-Vila A, et al. Effects of walnut consumption for 2 years on lipoprotein subclasses among healthy elders: findings from the WAHA Randomized Controlled Trial. Circulation. 2021;144(13):1083-1085
- Guasch-Ferré M, Li J, Hu FB, Salas-Salvadó J, Tobias DK. Effects of walnut consumption on blood lipids and other cardiovascular risk factors: an updated meta-analysis and systematic review of controlled trials. Am J Clin Nutr. 2018;108(1):174-187.