2022年11月29日
健康的なお酒との付き合い方~12のルールとは?~
キーワード: 生活習慣 二少(少食・少酒) 一無・二少・三多 セルフケア 協会・賛助会員関連ニュース 飲酒
「少量の飲酒は体に良い」は本当?
アルコールが肝臓に良くないことはよく知られていますが、世界保健機関(WHO)によると、アルコールがリスクを上げる病気や怪我の種類は200以上に及ぶと報告されています。その中で比較的多いものとして、膵炎や食道がんなどが挙げられます。
飲酒量と生活習慣病のリスクとの関係に着目すると、その用量反応関係は、だいたい4つのパターンに分けられるようです。
ひとつは飲酒量とリスクが比例するパターンで、高中性脂肪血症はこのパターンに該当し、がんもこれに該当するものが多くあります。
二つ目は、飲酒量がある一定のレベルを超えると急速にリスクが上昇する病気で、肝硬変がその代表です。
三つ目は少量の飲酒でもリスクが急速に高まり、その後は緩やかに上昇するパターンで、これには拡張期血圧の上昇が該当します。
そして四つ目が、「少酒」がリスク抑制に働く可能性がある、虚血性心疾患や脳梗塞、2型糖尿病などです。
ところが、世界195カ国から報告された飲酒と健康アウトカムの関連の研究データを統合したメタ解析の結果が、医学のトップジャーナルの「Lancet」に数年前掲載され、それによると、飲酒量がゼロであることが、最も健康リスクは低いという結果だったとのことです。そのため、最近では、飲まないのが一番良いと考えられるようになりつつあるようです。
また、飲酒量の増加に伴い、リスクが顕著に高くなる人がいます。それは、お酒を飲んだ時に顔が赤くなる人です。顔が赤くならない人では、飲まない人に比べた食道がんのリスクが、1日1合(180mL)で1.2倍、4合では12倍であるのに対して、顔が赤くなる人では同順に7倍、104倍もリスクが上昇するとのことです。
アルコール依存症について理解する
アルコール依存症は、以下の6項目のうち、3項目が同時に該当する時期が過去1年以内に認められた場合に診断されます。
1.飲酒に対する渇望 例えば人目を盗んで飲んだり、仕事中にもお酒のことが頭を離れなかったり、飲みたいのにお酒がない時には万難を排してでも買いに走るといったこと。 2.節酒のコントロール障害 飲み始めたら歯止めが効かなくなってしまう。 3.離脱症状 飲めない時に、吐き気や嘔吐、手の震え、眠れない、頻脈、発熱、幻覚などが現れる状態。 4.耐性の増大 飲んでも酔えなくなった状態で、ますます量が増えてしまう。 5.飲酒中心の生活 お酒が最優先という生活。 6.有害な使用に対する抑制の喪失 周囲から止められてもやめられない状態。
アルコール依存症に至ると、自分一人でその状況から抜け出すことは困難です。樋口氏の所属する久里浜医療センターなどの専門医療機関などでの治療や、自助グループへの参加が必要になります。
アルコール依存症を相談できる最寄りの専門医療機関・行政機関検索摂取しているアルコールの量を計算してみよう
そのようなアルコール依存症に至っていない多くの人に対しては、まず現在のアルコール摂取量を知ることが勧められます。アルコール摂取量は、〔飲酒量×アルコール濃度×0.8(水に対する比重)〕で計算されます。例えば、ビール中ビン1本(500mL)では、アルコール濃度が0.05%ですから、500×0.05×0.8=20gのアルコールを摂取することになります。
樋口氏らが日本人を対象に行った研究では、女性は平均6g/時、男性は8g/時の速度でアルコールを分解できることが明らかにされました。ただし、非常に個人差が大きく、3倍以上の開きがありました。そこで安全上の観点から、日本人のアルコール分解速度は4g/時とするという考え方がとられるようになりました。
この数値を当てはめると、ビール中ビン1本を飲んだら、アルコールが分解されるのに5時間かかるということになります。
ただし、アルコールを分解するスピードは、空腹時や睡眠中はより遅くなります。深酒して眠くなり、朝起きたらまだ体にお酒が残っていたという、いわゆる二日酔いは、睡眠中にアルコールの分解が遅くなることも関係しています。
4つのステップで酒量を減らす
アルコール依存症の場合は専門的な治療が必要ですが、その予備群にあたる多量飲酒者には、「簡易介入(brief intervention;BI)」という手法がとられます。
ただ、健康のためには酒量は少ないほど良いわけで、多量飲酒者に限らず、飲む人のすべてに「少酒」が勧められます。厚生労働省では、「節度ある適度な飲酒」として「1日20g(純アルコール量)程度」という目安を示していますが、樋口氏によると「程度」ではなく、「1日20g以下」を目安にすると良いとのことです。1日20gという量は、先ほどの計算式で述べたように、ビールなら中ビン1本(500mL=ロング缶)であり、日本酒なら1合(180mL)弱です。
樋口氏は、お酒を飲む人が酒量を減らす(減酒)には、4つのステップを踏むと良いと話します。
ステップ1は、自分の飲酒量を知ること。 ステップ2は、減らす目標を決めること。そして目標を決めたら、誰かに宣言すること。そうすると、宣言しなかった人よりも酒量が減ることが、実験で確認されています。 ステップ3は、飲んだ量を記録すること。飲酒量を記録するのがベストではあるものの、目標を守れたか否かを○か×かで書き留めておくだけでも良いとのことです。 そしてステップ4は、その記録を振り返って酒量が実際に減っていることを確認するというステップです。
樋口氏は、これらのステップの支援のためのツールとして、久里浜医療センターが作成した紙ベースのツール(各種教材・介入支援ツール)やオンラインツール(SNAPPY飲酒チェックツール)などを紹介し活用を勧めます。
各種教材・介入支援ツール(久里浜医療センター) SNAPPY飲酒チェックツール
健康を守るための12のルール
講演の最後は、健康を守るための飲酒に関する12箇条からなる、樋口氏のオリジナルルールが紹介されました。
1.飲酒は1日平均20g以下 1日20gは、ビールなら中ビン1本(500mL=ロング缶)、日本酒では1合弱であることは先ほど例示しました。それ以外には、ウイスキーならダブル1杯、ワインでは、レストランで提供される程度の少量のワイングラスで2杯弱の量。
2.女性・高齢者は少なめに アルコールの分解速度は体格や肝臓の大きさが影響するので、女性は血中アルコール濃度が高くなりやすいです。また、高齢者も分解速度が低下しています。それだけに、女性や高齢者は飲酒で体にダメージを受けやすいと言えます。1日に缶ビールのショート缶(350mL)1本以下にしてはどうでしょうか。
3.赤型体質も少なめに 「赤型体質」とは、お酒を飲むとすぐに顔が赤くなる体質のことです。日本人の約半数は、少量の飲酒後に顔が赤くなったり、心臓がドキドキしたりします。これは生まれつきの体質によるもので、アルコールの分解が遅く、アセトアルデヒドという有害物質の濃度が高くなり、がんやさまざまな臓器障害を起こしやすい体質です。
4.たまに飲んでも大酒しない 一つ目の項目に「1日平均20g以下」としていますので、なかには「週に1回140gでも、平均すれば20gだから大丈夫」と考える人がいるかもしれません。しかし、たとえ飲む回数が少なくとも、一時に大量に飲むと、体のダメージが生じたり、事故の危険が増加したり、依存症に進行するリスクとなります。
5.食事と一緒にゆっくりと 空腹時に飲んだり、イッキ飲みしたりすると、アルコールの血中濃度が急速に上がり、悪酔いしたり体に悪影響が生じます。とくに空腹時にはアルコールが胃を短時間で通過して十二指腸に至ります。胃でのアルコール吸収は比較的おだやかであるのに比べて、十二指腸では急速に吸収されます。また、アルコール度数の高いお酒は、割って飲むようにしましょう。
6.寝酒は極力控えよう アルコールは寝つきをよくするため、寝酒として飲む人もいます。しかし、お酒によって、睡眠は浅くなるため、夜間に目が覚めて眠れなくなったりします。健康な深い睡眠を得るためには、アルコールの力を借りないほうが良いでしょう。
7.週に2日は休肝日 昔から「休肝日が大切」と言われていますが、実は休肝日の有効性について、科学的なエビデンスははっきりしていません。しかし、お酒を飲まない日を設けて肝臓をアルコールから解放することは、良いことに違いありません。
8.薬の治療中はノーアルコール アルコールは薬の効果を強めたり弱めたりします。
9.入浴・運動前はノーアルコール 飲酒後の入浴は、不整脈や血圧の急な変動を引き起こすので危険です。日本では入浴中に亡くなる方が多いのですが、とくに飲酒後の入浴中に亡くなる人が少なくありません。運動前の飲酒も不整脈のリスクを上げ、また運動機能や判断力を低下させてしまいます。
10.妊娠・授乳中はノーアルコール 妊娠中の飲酒は胎児に影響を及ぼしますし、アルコールは母乳に移行しますので、授乳中の飲酒は乳児の発達に影響します。
11.依存症者は生涯断酒 アルコール依存症は飲酒のコントロールができないことがその特徴です。断酒を続けることが唯一の回復方法です。
12.定期的に健診やがん検診を 定期的に肝機能検査などを受けて、飲みすぎていないかチェックしましょう。また、赤型体質の人で習慣的に飲む人は、がん検診を受けましょう。
■関連情報
職場・地域で実践できる飲酒習慣改善「DASHプログラム」 ※本プログラムは保健師などの専門職向けです。
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会