2022年10月07日
10月8日は、糖をはかる日です。血糖のことを知り、はかって、血管を守ろう!
キーワード: 生活習慣 一無・二少・三多 糖尿病 肥満症/メタボリックシンドローム 動脈硬化 心筋梗塞/狭心症 脳梗塞/脳出血 健診・保健指導 協会・賛助会員関連ニュース 食生活
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
長引くコロナ禍に、腰を据えた対処を!
2020年春に新型コロナウイルス感染症パンデミック(コロナ禍)が発生してから、医療の現場はたびたび強い負荷にさらされています。もちろん、医療従事者だけでなく、人々の生活も激変しました。このような環境の急速な変化は、当然のように、病気のリスクに影響を及ぼします。とくに、発症や治療に生活環境が大きくかかわっている「生活習慣病」への影響が顕著であり、それは当協会が行った最近の調査でも見て取れます。
コロナ禍で一般生活者の身体活動量が減り、4人に1人がいわゆる「コロナ太り」を経験したこと、医師の回答では、糖尿病患者さんの受診が減ったことなどがわかりました。
糖尿病をはじめとする生活習慣病は、ごく短期間だけ生活習慣が乱れたからといって、それが直ちに発症につながったり、合併症(血管や臓器の障害)が進行したりするわけではありません。ですから、コロナ禍による環境の変化がほんの数カ月であったなら、生活習慣病の予防や治療はコロナ禍以前と同じような方法で再開すれば良かったかもしれません。しかし、コロナ禍は未だ終息の気配が見えません。
環境の変化がここまで長引くと、生活習慣病の予防や治療に関しては腰を据えなおし、コロナ禍以前とは異なる対処が必要になってきます。糖尿病については、新型コロナウイルス感染症の発症や重症化の要因として指摘されたことから、ご自身で自分の病気の状態を正しく知ることが、従来以上に重要になったと言えるでしょう。
また、高血糖には自覚症状がありませんから、一般の方の間でも「糖をはかる」意義が増していると言えます。
当協会は、コロナ禍の生活環境の変化に関して、何度か調査を行っていますが、本調査は、昨年3月にアンケートとして実施したものです。調査対象は、健診や人間ドック業務などを通じて生活習慣病関連の動向を把握している100名の医師と、全国の一般生活者3,000名です。
医師向けの質問項目からは、コロナ禍によって、「健診や人間ドック受診者が減っている」との回答が約4割に上ること、半数以上の医師が「HbA1c、BMI、中性脂肪、血糖値が悪化している」と回答していること(図)などが注目されます。
一方、一般生活者向けの質問からは、外出頻度が減りストレスが増加したこと(図)、4人に1人がいわゆる「コロナ太り」になったこと(図)などがわかりました。コロナ禍はなお続いていますので、このような傾向はさらに長引くことが予想されます。
コロナ禍の生活変化で糖尿病リスクが高まっている!(アンケート詳細)血糖値とは?、HbA1cとは?
アンケートでは、コロナ禍により人々の「血糖値」、「HbA1c」が上昇しているという可能性が示されました。では、この血糖値やHbA1cという検査がどのような意味をもっているのでしょう。
血糖値とは、全身の細胞のエネルギー源である血液の中のブドウ糖(=血糖)の濃さのことです。通常は血液1デシリットル(dL)あたり100ミリグラム(mg)程度です。しかし、食後には食べたもの(炭水化物)が消化吸収されて「血糖」になるため、健康な人でも少し高くなります。
ただし健康な人では、インスリンの働きで、血糖はすぐに細胞のエネルギー源として使われたり、余った分は肝臓や筋肉のグリコーゲンとして蓄えられたりして、短時間で食前のレベルに戻ります。
それに対して、糖尿病という病気はインスリンの働きが低下する病気であるため、糖尿病患者さんでは食後の長時間、血糖が血液の中に多い状態、つまり「高血糖」が続きます。
食事のほかにも血糖値に影響を及ぼす因子はいろいろあります。
■血糖値が上がる要因 食べ過ぎ・飲みすぎ、運動不足、肥満・メタボリックシンドローム、 加齢、感染症への罹患、ストレス、薬の副作用(ステロイド薬、 抗精神病薬など) ■血糖値が下がる要因 糖尿病や糖尿病予備群に対する食事・運動・薬物治療、 減量・メタボリックシンドロームの解消、ストレス軽減、 慢性感染症(歯周病やウイルス性肝炎など)の治療
血糖値は食事などとの関連で、測定するタイミング次第で結果が大きく変化してしまうのに対して、「HbA1c」は過去1~2カ月の平均的な血糖の高さがわかる検査です。
HbA1cの「Hb」はヘモグロビンのこと。ヘモグロビンは赤血球の主要な成分で、血液中の酸素と結合して体の隅々に酸素を運搬しています。血液中の糖の濃度が高いと(高血糖だと)、ヘモグロビンの一部が糖と結合して変化します。そのように糖と結合して変化したヘモグロビンが「HbA1c」です。
ヘモグロビンに占めるHbA1cの割合(パーセント)が高ければ、採血時点の血糖値が低いとしても、過去1~2カ月程度は高血糖が続いていたと判断できます。
食後高血糖と空腹時高血糖と合併症
血糖値は食事などの影響を受けて時々刻々と変化しています。そして、血糖値のそのような上下動は、健康な人よりも糖尿病や糖尿病予備群の人のほうが大きくなります。なぜなら、血糖値を下げるように働くインスリンの作用が低下しているからです。
加齢や食習慣の乱れ、運動不足などによってインスリンの働きが低下してくると、一般的にまず食後の血糖値が上がり始めます。そして、インスリンの働きがより低下すると、空腹時の血糖値も基準値を超えるようになってきます。
ここで糖尿病の診断基準を簡単に見ておきましょう。
血糖値が「正常型」と判定されるのは、空腹時に110mg/dL未満かつ75gブドウ糖負荷後2時間値(日常生活においては食後に相当)が140mg/dL未満です。一方、「糖尿病型」と判定されるのは、空腹時に126mg/dL以上または糖負荷2時間後、あるいは随時血糖200mg/dL以上の時です。
正常型でも糖尿病型でもない場合は、「境界型」と判定され、いわゆる糖尿病予備群にあたります。
糖尿病型の診断基準値は、過去の多くの研究から、糖尿病網膜症や糖尿病腎症などの「細小血管症」と呼ばれる糖尿病に特異的な合併症のリスクが高まる血糖値として定められました。
注意が必要なのは、この基準値はあくまで「糖尿病に特異的な合併症」のリスクが高まる血糖値であって、この基準値未満であれば合併症の心配はない、ということではありません。「糖尿病に特異的ではない合併症」のリスクは反映されていません。
糖尿病に特異的ではない合併症とは、心筋梗塞や脳卒中、末梢動脈疾患などの「大血管症(動脈硬化性疾患)」と呼ばれる血管病です。
これらの大血管症は高血糖のほかに、脂質異常症(高脂血症)や高血圧、メタボリックシンドロームなどの影響も受けて発症・進行するため、血糖値だけでそのリスクを判定することが難しいことから、診断基準に反映されていません。
現時点では、血清脂質(コレステロールや中性脂肪)、血圧などとの関連で、総合的にリスクを評価しています。そのような総合的なリスク評価に基づいて治療すべき人を特定するための健康診断が、「特定健康診査・特定保健指導」、いわゆるメタボ健診です。
糖尿病予備群では空腹時血糖値よりも食後の血糖値が高くなりやすく、そのような状態では動脈硬化が進みやすく、動脈硬化が進行すると、心筋梗塞や脳卒中、足の壊疽などが起きてきます。
糖尿病予備群の状態は、文字通り「糖尿病の準備段階」にあたります。つまり、糖尿病のリスクも高い状態です。血糖値が糖尿病の診断基準を超えてくると、動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中などのリスクだけでなく、糖尿病に特異的な細小血管症が進み、網膜症や腎症、あるいは神経障害などが起きてきます。
糖をはかる
大血管症(動脈硬化性疾患)のリスク因子として、高血糖、脂質異常症、高血圧があげられます。これらのうち、最も変動が激しい検査値は血糖値です。
糖尿病の人の血糖値には、大きな日内変動がみられます。そのため、なるべく血糖値を頻繁にはかりコントロールすることが治療の目的です。
糖尿病ではなくても糖尿病予備群の人の場合、動脈硬化の進行を速めてしまう食後高血糖が起きていないかを確かめたり、血糖値が糖尿病の基準値を超えていないかを確かめたりするために、やはり血糖値やHbA1cをこまめに測定することが推奨されます。
治療を続けている糖尿病患者さんであれば、受診時に血糖値やHbA1cが測定されることが多いでしょう。また、インスリン療法を行っている糖尿病患者さんでは、自分で血糖をはかることのできる機器(血糖自己測定〔SMBG〕、連続血糖測定〔CGM〕、間歇スキャン式持続血糖測定〔isCGM〕など)の使用が医療保険の適用となっています。
最近では、腕時計型の非侵襲(採血しない)血糖値モニターが開発されていますが、実用化されるまではしばらく時間を要し、さらに糖尿病でない一般の方でも使用できるようになるのは、かなり先になるようです。
そのため、糖尿病予備群の方の場合、自分の血糖値やHbA1cを知ることができる機会は健康診断と、街中にある検体測定室のみです。食後高血糖が起きていないかを知るために、たまに食後に検体測定室を訪れてみるのも良いかもしれません。
ゆびさきセルフ測定室は、検査を受ける人が、指先から自分で採取した血液から、血糖値やHbA1c、中性脂肪など生活習慣病に関する項目を検査できるスペースです。 測定の説明から結果の説明まで、20~30分で正確に測定できることが話題となり、全国の調剤薬局などで設置店が増え続けています。
ゆびさきセルフって何? ゆびさきセルフ測定室ナビ~近くの測定室を検索する~血糖のことを知り、はかって血管を守ろう!
「人は血管とともに老いる」と言われますが、糖尿病や高血圧や脂質異常症は、いずれも血管の老化を速めてしまう病気です。とくに「糖」は、大血管と小血管の両方にダメージを与えます。
健康診断で高血糖を指摘され、糖尿病と確定されるのが嫌で医者を受診しない方も多くいるといわれます。厄介なことに、血管の病気はほとんど自覚症状の現れずに進行し、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患など、取り返しがつかないことになってしまうことが少なくありません。
症状が現れないうちに病気を発見し、治療の良し悪しを判断するためには、多くの検査が必要になってきます。
「糖をはかる」検査の意味と意義を理解して、病気を早期発見し、しっかりと治療を続け、血管の老化を歳相応の範囲内に抑えるようにしましょう。
「10月8日は、糖をはかる日」「1月23日は、一無、二少、三多の日」
今回の「糖をはかる日」として、糖尿病や大血管症(動脈硬化性疾患)のリスクの指標として血糖(=血液の中のブドウ糖)を取り上げましたが、忘れてはならないのは、ブドウ糖は私たち、人が活動する上での必須のエネルギー源であるということです。
食事として摂取したご飯などに含まれる炭水化物(糖質)は、体内で分解・消化されてブドウ糖となり、さまざまな生理活動に利用されていますが、脳機能を正常に活動させるために欠かせない栄養素です。
食べ過ぎで満腹になって少し経つと、眠くなる、集中力が低下するといった経験があるでしょう。これは、血液中のブドウ糖が増えすぎて血糖値が急激に上昇した状態する「食後高血糖」の反動と言えます。つまり、食後しばらく経ってからインスリンが大量に分泌されることで、今度は血糖値が急激に下降し、低血糖に近づくことが原因です。
食後高血糖は、いわゆる「血糖スパイク」といわれるものですが、血糖スパイクを繰り返すと内臓脂肪が蓄積しやすくなり、血管のダメージも大きくなるため、動脈硬化性疾患を発症しやすくなると考えられています。
血糖値は、健康の指標でもあるのです。血糖値の急激な変動を起こさない、インスリンを正常に機能させるための食生活、生活習慣を維持することが大切です。
そのためには、当協会は、「一無、二少、三多」〔一無:無煙・禁煙、二少:少食、少酒、三多:多動、多休、多接〕というシンプルなスローガンを掲げ、1月23日を「一無、二少、三多の日」、続く2月を「全国生活習慣病予防月間」と定め、わかりやすい生活習慣改善法の普及、実行に努めております。
例えば、「少食」は腹八分の食事のすすめです。常に食事は腹八分を意識する。その上で、サラダなど食物繊維を先に食べると血糖値の変動は穏やかになります。しかし、複雑に考える必要はなく、まずシンプルに腹八分から始めましょう。
この度、当協会では、「一無、二少、三多」普及啓発を拡大するため新しいシンボルマーク「一無、二少、三多」ピクトグラムを作成しました。
引き続き、「糖をはかる日」と「一無、二少、三多」へのご関心と当協会への皆様のご支援をお願い申し上げます。
一般社団法人日本生活習慣病予防協会 理事長 宮崎 滋
一無、二少、三多とは?