2022年09月22日
日本の女性のやせ過ぎ問題とその栄養対策 Part 1 若い女性のやせ過ぎ問題は待ったなし!
キーワード: 生活習慣 一無・二少・三多 糖尿病 肥満症/メタボリックシンドローム 骨粗鬆症/ロコモティブシンドローム/サルコペニア 協会・賛助会員関連ニュース 女性の健康 身体活動・運動不足 食生活
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
若い女性のやせ過ぎ問題
日本人の体格をBMI値*の推移で見てみましょう(図)。
男性の場合は20歳を超えると、どんどん太めに推移してきました。一方、女性は1980年頃を境に、スリム化傾向がみられます。とくに20代女性のBMIが低いことが顕著で、「やせ」の女性が多いことがわかります。
実に、日本の若年女性では約5人に1人が、BMI18.5未満の「やせ」に該当しています。また、そのような女性の多くが、普通体重(BMI18.5~25)、または現在「やせ」であるにもかかわらず、自分が太り過ぎていると思っている日本人女性が多いこともわかっています。
過剰な食事制限のダイエットや痩身願望などの若年期に身に付けたライフスタイルは、そのまま歳を重ねても引き継がれ、高齢女性のやせの一因になっていることも指摘されています。
*BMI(体格指数):体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
「若い女性のやせ過ぎ問題」に関して、厚生労働省も対策に乗り出し、webなどで啓発活動を続けています。また、つい最近、同省が若年女性のやせ問題の研究班を設置して、対策強化に乗り出すことが報道されました。 「働く女性の健康応援サイト」(厚生労働省) 「若年女性のやせ形、対策強化 適切な健康管理促す、厚労省」
若い女性のやせ過ぎは、本人の将来と子どもの健康問題につながる
BMI18.5未満が「やせ」と判定されるのには、医学的な根拠があります。やせ過ぎでの状態では健康障害が危惧されるためです。
順天堂大学大学院・スポートロジーセンターの研究グループは、普通体重の若年女性(平均BMI20.3、年齢22.6歳)と、やせている若年女性(BMI17.4、23.6歳)を対象に、経口ブドウ糖負荷試験という糖尿病の診断に用いられている検査を行いました1)。
その結果、普通体重の若年女性でもその1.8%に、ブドウ糖負荷後(日常生活においては、食後に相当)に血糖値が基準値を超える高血糖を示し、「耐糖能異常」と判定されました。耐糖能異常とは「糖尿病予備群」のことで、なんらかの対策をしなければ糖尿病を発症するリスクが高く、動脈硬化が進行しやすい状態です。
一方、やせている若年女性の耐糖能異常の割合は13.3%であり、普通体重の若年女性の7倍以上に上りました。この13.3%という割合は、肥満・糖尿病大国として知られる米国の若年肥満女性の耐糖能異常の有病率(BMI30以上で10.6%)よりも高く、憂慮すべき値といえます。
詳細な検討の結果、やせていて耐糖能異常に該当する女性は、糖を取り込む組織である筋肉が少なく、肥満者の特徴であるインスリン抵抗性(血糖値を下げるホルモンであるインスリンの作用が低下した状態)がみられるなど、やせているにもかかわらずメタボリックシンドロームと同じような変化が起きていることがわかりました(「サルコペニア肥満」に関連。Part 2参照)。
このような状態の女性への対策として、研究者らは、「十分な栄養と運動により筋肉量を増やすような生活習慣の改善が重要と考えられる」と述べています。
なお、BMIと糖尿病発症リスクとの関係がU字カーブを描く、つまり肥満だけでなくやせも糖尿病のリスクであることは、中年期の日本人を対象とした研究からも示されています2)。また、30~59歳のBMI15.9以下という極めてやせている女性では、高血糖や脂質異常、高血圧が多いというデータも報告されています3)。 「痩せていても肥満者と同様の体質」(順天堂大学プレスリリース)
若い女性のやせ過ぎの健康障害には、月経異常も挙げられます。過剰な食事制限のために月経が乱れたり、無月経になることがあります。無月経になるとは、若くして閉経期(更年期)と同じ状態になるため、将来の妊孕性低下につながり、子どもを産めなくなる可能性が高くなります。
近年、日本では低出生体重児(2,500g未満)が増加しており、これには母親のやせが関係していると考えられています。そして、出生時体重が低い子どもは、成長後に糖尿病などの生活習慣病を発症しやすいことが、疫学研究から示されています。 「出生に関する統計」(厚生労働省)
初めは本人の意思で開始したダイエットが、いつの間にかコントロールができなくなり、摂食障害(拒食症や過食症など)につながることもあります。
また、女性アスリートは摂食障害の有病率が高いことが知られています。例えば、ノルウェーの研究4 )では、持久系スポーツの女性アスリートでは24%、審美的スポーツでは実に42%が摂食障害に該当するという研究結果が報告されています。競技によっては、やせていることで一時的にパフォーマンスが向上することもありますが、その状態は長く続かず、かえって選手生命が短くなったりしがちです。そして摂食障害の影響は、アスリート引退後にも継続してしまうことが残ってしまうことが少なくありません。
骨粗しょう症はカルシウムやビタミンDの不足、および運動による負荷が少ないことによって、骨量が増えないために生じます。それでも、若いうちはあまり影響ありませんが、高齢期に入ってから大きな問題になります。
ダイエットなどを行っていないのにやせ過ぎの場合は、精神疾患やがん、感染症、種々の内分泌疾患(甲状腺機能亢進症,バセドウ病など)などが原因である可能性もありますので、医者に相談しましょう。
やせているのに太っている? 今すぐBMIのチェックを!
女性のやせ過ぎは日本だけの問題ではありません。十年ほど前から、やせ過ぎの場合(BMI18.5未満)はファッションショーに出場できないとする規制を設ける国が現れ始めました。また、実際よりやせているように見えるように工夫した写真を印刷物などに使用する場合は、画像修正を行ったことを明記しなければならないという規制も複数の国で実施されています。
日本ではまだ規制はありませんが、日本摂食障害学会などが、対策の必要性を強調し働きかけを続けています。
まずは、「やせているのに太っている」といった間違った考え方をしていないか、チェックすることから始めましょう。BMIが18.5以下なら、「やせ」に該当します。 「痩せすぎモデル規制学会声明」(日本摂食障害学会)
「見かけ」で判断しない!~河盛隆造先生に聞く~
「スポートロジー」とは、スポーツを「健康にいかに役立てるか」という視点で研究する新しい学問。現在の基幹研究テーマのひとつが「やせた女性の実態と病態」の研究です。「スポートロジー」を創設された現・センター長 河盛 隆造先生(日本生活習慣病予防協会 理事)にお話を伺いました。
「肥満があるから糖尿病になっていないか」、「肥満でないから病気はないだろう」というように、人を「見かけだけ」で判断する傾向があります。当センターのキャッチフレーズは、「測れるものはちゃんと正確に測りましょう、測れないものは測れるようにしよう」というものです。
発表するとマスコミで"やせメタボ"と騒がれた研究がありました。肥満もなく、健診で異常もない40代のサラリーマン100名以上を詳しく測定してみたら、肝臓や筋肉に脂肪がたまっている。筋肉でのインスリンの働きが、メタボの人と同じように低下し、ブドウ糖が取り込まれなくなっていました。
その原因は、と思い、聞いてみたら、「忙しくて運動時間などない、食事時間も短く、がつがつ食べてしまう。糖質・脂質は避け、タンパク質を摂っているといっても、せっかく脂身の少ない鶏肉をから揚げとして食べている」と、無意識に脂質を摂りすぎている人が非常に多いことがわかりました。運動不足で筋肉を使っていないため、余分な脂肪が筋肉に溜まっていたのです。
さらに、大手町近辺の女性会社員約150名に参加して頂きました。平均年齢24歳、身長160cm以上、体重45キロ以下、足も細くて、皆さんとっても格好いいスタイルでした。心配になって血液中のビタミン‐D を測ってみたところ、とても低く、さらに骨量を測ると、「骨粗しょう症」と診断せざるを得ない例すらいました。加えて筋量も少なく、「サルコペニア」と診断されるケースも多く見つかりました。
なぜ、そんなことになっているのかと詳しく聞いてみると、日焼けが嫌、そもそも歩くのが嫌い。太るのが嫌だから糖質を摂らない。そして実は無月経に悩んでいると言うのです。
当センターでは、この女性たちに、将来的な健康リスクを説明し、正しい食事、正しい運動を教育しました。彼女たちは、必死になって是正してくれて、正常に復しています。
世界で日本だけが全国民に健診を義務付けています。しかし健診結果で「糖尿病です。要治療」と判定されているのに、治療を受けるのがめんどうくさいと無視する「糖尿病放置病」の人がいっぱいいて、目や腎臓の障害が出たり、心筋梗塞になって、慌てて治療を受けに来たりする現実があります。
私たち医療関係者、食品会社、マスコミなどは、科学的根拠に基づいた事実、それを具体化する食事、運動、日常の身体活動、それらをきちんと伝えることが大切です。
日本は世界に類を見ない高齢社会に直面しています。加えて40代、50代から、サルコペニアやフレイルという状況が起こってきています。無意識のうちに脂質を摂りすぎて肥満になり、糖尿病が激増し、若くして認知症を発症している例も増えています。
誰もが100歳まで生きる時代です。しっかり元気で生きるためには、筋力をつけないといけない、まめに身体活動を高める、ご飯を中心とし、タンパク・脂肪をバランスよく摂る食事を楽しむようにしたいものです。
Part 2 高齢女性のやせ過ぎ問題も待ったなし! Part 3 筋肉貯金を始めよう!