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高尿酸血症と動脈硬化 ~高尿酸血症が動脈硬化を引き起こす機序が解明されてきた~

キーワード: 生活習慣 高尿酸血症/痛風 協会・賛助会員関連ニュース 食生活

 高尿酸血症が動脈硬化を促すメカニズムに関する研究結果が、第55回日本痛風・核酸代謝学会(2022年2月17・18日、web開催)で報告されました。血液中に尿酸が結晶の状態で存在すると、血管の細胞死を促したり、血液を固まりやすくする因子が増えるという発表です。
 これまで、高尿酸血症の人に動脈硬化による心血管疾患やそれによる死亡が多いことは知られていました。今回報告された研究結果を含め、ここ数年の間に、高尿酸血症が直接的に動脈硬化を促す機序が明らかになってきています。
 今回の研究の筆頭演者である經遠 智一先生(鳥取大学医学部 医学科 ゲノム再生医学講座 再生医療学部門 助教)と尿酸値と動脈硬化の関連について長年研究を続けてこられた久留 一郎先生(同 特任教授、国立病院機構 米子医療センター 病院長)に、現在どのようなポイントがトピックになっているのか、今回の研究の意義をご解説いただきました。

高尿酸血症と動脈硬化

 高尿酸血症が痛風のリスクファクターであることは、よく知られています。一方、病気のなりやすさの予測や病気の勢いなどを表す指標として使われるリスクマーカーという表現があります。痛風に関しては、高尿酸血症はリスクマーカーでもあり、リスクファクターでもあることは明確です。

 では、高尿酸血症と動脈硬化性疾患の関係は、リスクマーカーなのでしょうか、リスクファクターなのでしょうか。

高尿酸血症は動脈硬化性疾患のリスクマーカー

dr.hisadome_r.png 「脳・心血管イベントリスク因子として知られている糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満症などの生活習慣病には、高尿酸血症が合併しやすいことが知られています。これは、生活習慣の乱れが内臓脂肪の蓄積を介してインスリン抵抗性を起こし、結果として糖尿病、高血圧、脂質異常症等の生活習慣病と高尿酸血症が、一人の患者さんに重積してくるからです。
 つまり、主としてインスリン抵抗性の結果として高尿酸血症が生じるので、高尿酸血症はインスリン抵抗性があると判断するマーカーとなります。そして、インスリン抵抗性がある状態は、動脈硬化性疾患(脳・心血管イベント)のハイリスク状態です。」

 実際、高尿酸血症の患者さんは動脈硬化性疾患のリスクが高いことは、国内外で行われてきた多くの疫学研究から明らかになっています。

 国内で心血管疾患予防のためのエビテンスを得るために実施された観察研究「EPOCH-JAPAN研究」では、3万6,313人(心血管疾患やがんの既往のない35~89歳の男性1万5,628人、女性2万685人)を、44万1,771人年追跡(13の研究、平均10年)しました。その結果、1,288人の心血管疾患による死亡が記録され、尿酸値と心血管死リスクとの間に統計的に有意な関係が認められました。すなわち、追跡開始時点(ベースライン)の尿酸値が低い下位20%の人たちに比べて、尿酸値の高い上位20%の人たちは、男性では3割弱、女性は5割以上も、心血管疾患による死亡リスクが高かったのです*
 *W Zhang, et al: J Atheroscler Thromb. 23 (6): 692‐703, 2016

 米国で1948年にスタートし現在もなお継続中であり、数々の重要なエビデンスを発信してきている疫学研究の金字塔とされる「フラミンガム研究」からも、尿酸が心血管疾患のリスクマーカーであることが報告されています。

 このほかにも、尿酸値が基準値内であっても高い場合は、血管内皮依存性の血管拡張反応の低下(動脈硬化の比較的早い段階で現れる変化)や、頸動脈IMTの肥厚(動脈硬化がある程度進行し血管内腔が狭くなる変化)が生じていることを示した研究結果など数多くのデータがあります。

 高尿酸血症の人は、メタボリックシンドロームやその構成因子である高血圧、脂質異常症、糖代謝異常(糖尿病やその予備群)、慢性腎臓病などの動脈硬化のリスクファクターを併発していることが少なくなく、それらの影響と相まって、動脈硬化が進行しやすい状態にあり、高尿酸血症が動脈硬化性疾患のリスクマーカーであることは疑いがないようです。

高尿酸血症は動脈硬化性疾患のリスクファクターか?

 高尿酸血症が動脈硬化性疾患のリスクマーカーであってもリスクファクターだとは言い切るほどのエビデンスは、臨床研究からはまだ得られていません。しかし、基礎研究からはさまざまなメカニズムが明らかになっています。

 尿酸値が高くなる原因の一つは、尿酸が体内で多く作られすぎていることにあります。これにはキサンチンオキシダーゼ(XO)活性の亢進という状態がかかわっており、XO活性の亢進は活性酸素を増やして血管内皮機能を低下させ、血管の柔軟性を失わせることがわかっています。また、体内には尿酸を吸収する尿酸トランスポーターという仕組みがあり、それは血管の細胞にも存在し、血液中に尿酸を取り込むこともわかってきました。

 さらに、尿酸塩結晶が沈着している部位には炎症が起こりやすく、それも動脈硬化を促すように働きます。2020年以降の画像診断技術の進歩とともに、今まで確認されていなかったことが急速に明らかになってきたのです。

心腎連関と結晶誘発性炎症の関連も明らかに

dr.tsunetou_r.png  「高尿酸血症の患者さんの冠動脈や大動脈の血管壁に、尿酸塩結晶が沈着していることがわかってきたのです。尿酸塩結晶が沈着している部位には炎症が起こります。例えば、痛風発作は関節に溜まった尿酸塩結晶が引き起こす炎症です。血管壁に尿酸塩結晶が沈着しているという事実は、このような「結晶誘発性炎症」が血管にも起きている可能性を示しています。ただし、これが動脈硬化の一因だということはまだできません。このような所見と脳・心血管イベントに有意な関連があることを、さまざまな対象者で確認する必要があります。」

 さらに久留先生は、このような結晶誘発性炎症を介するメカニズムとは別に、高尿酸血症が動脈硬化を引き起こすもう一つのメカニズムとして、腎機能低下を介した経路について指摘します。

 「高尿酸血症が腎機能低下のリスクファクターであることには十分なエビデンスがあり、疾患ガイドラインにも記されています。高尿酸血症の治療は痛風の予防だけでなく、腎機能の低下を防ぐことも重要な目的です。そして、腎機能は心臓の機能と密接なつながりがあり、『心腎連関』と呼ばれます。これら両者は互いに影響を及ぼし合いながら、機能が悪化していきます。ですから、高尿酸血症のために腎機能が低下すると、心機能も低下して、心血管イベントが起きやすくなると考えられます。」

 ここまでのお二人の先生のお話を整理すると、高尿酸血症は動脈硬化性疾患のハイリスク状態、すなわちリスクマーカーであることは明らかで、そして、動脈硬化のリスクファクターか否かについては研究が続いているといった状況のようです。

 では、今回の經遠先生らの研究グループによる新しい発見とはどのようなことなのでしょうか?

今回の研究成果

 經遠先生らの今回の研究の背景は、前述のように、2020年以降の画像診断の技術の進歩により、動脈の血管壁に尿酸塩の沈着が起きていることが報告され始めたことにあります。經遠先生は「その報告に驚愕しました」と表現しています。そして、血管壁に尿酸塩が沈着した場合に、どのようなことが起こるかを検討しました。

高尿酸血症が血管壁の細胞にダメージを与えたり、血栓が作られやすくする可能性

 今回の研究では、ヒトの血管の細胞を培養し、そこに尿酸塩結晶を500μg/mLの濃度で添加して、24時間後の細胞の状態を観察しました。その結果、動脈硬化の進行につながると考えられる、二つの変化が観察されました。

 なお、尿酸値が7mg/dLを超えている場合に「高尿酸血症」と診断されるのですが、それは、尿酸値が7mg/dLを超えると、血液に溶けきれなくなり、血液中に尿酸塩結晶が現れやすくなるからです。今回の検討に用いた「500μg/mL」という実験条件は、50mg/dLに該当します。これは尿酸塩結晶の実験では一般的な濃度設定であり、高尿酸血症の急性反応を観察するのに適した値とのことです。

尿酸塩結晶がヒト血管内皮細胞に取り込まれて細胞死を引き起こす

 本研究で観察された変化の一つは、血管壁を構成している細胞の中に尿酸塩結晶と思われる粒子が見つかったことです(図1上)。これは、血液中に溶けきれていない尿酸塩結晶が、血管の細胞に取り込まれる可能性のあることを示唆しています。

 さらに、尿酸塩結晶を添加した血管壁の細胞では、何も添加しない対照群に比べて、死細胞の割合が約30%増加していました(図1下)。この結果は、血液に溶けきっていない尿酸塩結晶が存在している場合、つまり高尿酸血症の場合、血管の細胞が直接的なダメージを受ける可能性のあることを意味しています。

fig01.png 図1 血管の細胞への尿酸塩結晶添加時の顕微鏡観察結果(上)および、フローサイトメーターによる死細胞数の測定結果(下)

尿酸塩結晶が取り込まれた細胞ではPAI-1の遺伝子発現が増加する

 また、尿酸塩結晶が取り込まれた血管の細胞では、PAI-1というアディポカイン(脂肪組織などから分泌される生理活性タンパク)の遺伝子発現が、対照群に比べ有意に上昇することも観察されました(図2)。

fig02.png

図2 血管の細胞のPAI-1遺伝子発現量

 PAI-1とは、「プラスミノーゲン活性化阻害因子-1」の略で、血液が固まるのを防ぐ作用を抑制するように働きます(図3)。そのため、PAI-1が増えると、心筋梗塞や脳梗塞の原因である血栓ができやすくなります。

fig03r.png

図3 PAI-1の作用機序

血液中のプラスミノーゲンという因子がtPA(組織プラスミノーゲン活性化因子)の働きでプラスミンにかわり、それがフィブリンという血液を固める因子の過剰な作用を抑制します(左図)。ところが、PAI-1はtPAの働きを阻害するように作用するため、PAI-1が増えると血液が凝固しやすくなります(右図)。

 今回の研究で観察された、PAI-1の遺伝子発現上昇という現象は、血液に溶けきっていない尿酸塩結晶が存在している場合、つまり高尿酸血症の場合、血栓をできやすくするPAI-1が血管の細胞で多く作られてしまって、血栓イベントが起きやすくなる可能性のあることを意味しています。

本研究の意義と高尿酸血症と動脈硬化の研究のこれから

 經遠先生は、これら一連の結果成果について次のようにまとめています。

 「尿酸値が高い高尿酸血症の状態が続いていると、尿酸塩結晶が関節に沈着することで炎症が起こり、急激な痛風発作が生じます。同様に、血管組織でも尿酸塩結晶が沈着することが近年報告されています。本研究では、高尿酸血症により血管組織に尿酸塩結晶が沈着することで血管障害が誘発され、動脈硬化の直接的なリスクに成り得ることが示されました。」

 さらに、今後の研究について、「今後、よりヒトの高尿酸血症に近いレベルで長期間観察し、慢性的な変化を検討したい」と述べています。また、「結晶誘発性炎症を引き起こすもう一つの原因であるコレステロール結晶と尿酸塩結晶が併存した場合に、動脈硬化につながる変化が相乗的に進行するのか」「いったん血管壁細胞に取り込まれた尿酸塩結晶が、尿酸レベルを下げることによって(高尿酸血症の治療によって)、元の状態に回復するのか」などの研究により、「基礎データを積み重ねていきたい」と抱負を語っています。

どの様な高尿酸血症が動脈硬化のリスクが高く、治療介入するべきかなど、臨床面での貢献も期待される【コメント】

 高尿酸血症が動脈硬化性疾患のリスクファクターであるか否かについては、結論が出ていませんでした。最近になり、臨床面ではdual-energy CTの高い精度の物質弁別能を用いて、痛風患者さんの血管への尿酸結晶の沈着が報告されるようになってきました。それと同時に、基礎的な研究も精力的に行われるようになりました。今回の発表は血管の細胞を培養し、高濃度の尿酸を添加することにより、血管への尿酸沈着を再現し変化を検討したものです。その結果、動脈硬化に大きく関与するPAI-1の遺伝子発現の増加を証明するなどの成果を上げています。
 このような研究の積み重ねにより、高尿酸血症と動脈硬化の関係が明確になれば、どの様な高尿酸血症が動脈硬化のリスクが高く、治療介入するべきかなど、臨床面での貢献も期待されます。

市田 公美
日本生活習慣病予防協会 役員
東京薬科大学病態生理学教室 教授

高尿酸血症のセルフメディケーション

 今回の研究で、血液中に尿酸塩結晶が存在する場合、それが血管壁の細胞に取り込まれて細胞壁を破壊することや、血管壁で血液が固まりやすくなることがわかりました。ただ、今回は500μg/mLを1回添加するという急性反応を検討しています。動脈硬化は何年間も時間をかけて進行します。ですから、その治療も継続が重要です。

 ところが、久留先生は、「生活習慣病の治療は継続が大事だが、ドロップアウトが多い。なかでも高尿酸血症はドロップアウト率が高い」と以下のように指摘します。

高尿酸血症の治療目標は6mg/dLで、治療を中断しないことが大切

 「高尿酸血症の患者さんの治療継続率の低さには、『痛風発作が治ればそれでいい』と思ってしまう患者さんが多いことが関係していると考えられます。しかし、高尿酸血症は痛風が怖いだけでなく、既に解説したように、腎機能が低下しやすく、腎機能の低下は心機能の低下につながり、他のリスクファクターとあいまって動脈硬化のリスクを高めます。そして、高尿酸血症が血管壁に直接的にダメージを与える可能性が、今回の研究で示されました。
 また、7mg/dlを超えるというのが高尿酸血症の診断基準ですが、治療目標は6mg/dLです。なぜなら、6mg/dL以上では、組織に沈着した尿酸塩結晶が減っていかないから、つまり痛風や腎機能低下のリスクのある状態が改善されない」

ポリファーマシー対策としてのセルフメディケーション

 一方、治療を継続している患者さんであっても、高尿酸血症の患者さんは高血圧や高血糖など、他の動脈硬化のリスク因子を合併していることが多く、すでに複数の薬剤が処方されていることが少なくありません。多剤併用(ポリファーマシー)により有害事象が起きやすくなるため、なるべく薬剤数は減らしたいところ。そこで、薬剤以外の方法による治療、つまりセルフメディケーションが注目されます。

 久留先生は、「高尿酸血症に対するセルフメディケーションとして、体重管理や節酒とともに、最近、尿酸値を下げるように働く機能性表示食品などが販売されていますので、それらを試すのもよいでしょう」と薬剤以外の方法によるセルフメディケーションも勧めます。

血清尿酸値が高いと指摘されたら、尿酸塩結晶ができるのを予防するために、生活習慣の改善【コメント】

 近年、冠動脈疾患において尿酸塩結晶が血管に沈着することが報告され、尿酸塩結晶と血管障害との関連が注目されています。尿酸塩結晶が血管の細胞に及ぼす影響を調べている經遠先生、久留先生の研究は、その機序を示すデータとして重要な意義があります。
 尿酸の生理的飽和度は6.8 mg/dLで、これを超えると過飽和状態となり、いつ尿酸の結晶ができてもおかしくありません。実際、無症候性高尿酸血症の患者の関節に尿酸塩結晶の沈着が認められています。蓄積した尿酸塩結晶を溶かすためには6.0 mg/dL 以下に保つ必要があり、高尿酸血症の治療目標は 6.0 mg/dLとされています。
 血清尿酸値が高いと指摘されたら、尿酸塩結晶ができるのを予防するために、生活習慣の改善〔体重管理、節酒、乳製品(牛乳やヨーグルト等の尿酸値を下げる食品を入れたバランスの良い食事)〕に取り組んでいただきたいと思います。

金子 希代子
日本生活習慣病予防協会 役員
帝京平成大学薬学部 教授

[mhlab]

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