2021年04月22日
日常的にくるみを摂取すると、ピロリ菌が原因となる疾患を予防できる可能性が 動物実験により判明
キーワード: 協会・賛助会員関連ニュース 食生活
(カリフォルニア くるみ協会)
韓国のCHAがん予防研究センターの研究グループが実施したマウス実験で、くるみを豊富に含む食生活にピロリ菌感染による疾患を予防できる可能性があるとする予備的なエビデンスが示されました。この研究からは、くるみ全体から生成された抽出物には胃腸内において保護たんぱく質の生成と抗炎症作用を促進する可能性があり、それがピロリ菌感染やピロリ菌が引き起こす悪性腫瘍を予防することが示唆されました。この研究は、カリフォルニアくるみ協会の支援を受けています。
ピロリ菌感染は総じて社会経済的状況や衛生環境に関連するため途上国で多くみられ、感染経路は「ヒト-ヒト感染」または食べ物や水とされています。日本ではほかの先進国と同様、若年者の感染率は低いものの、高齢者になるにつれて感染率が上昇し、特に高度経済成長期に入る1950年以前に生まれた人の感染率は70〜80%にのぼります。
ピロリ菌感染は、胃や小腸の潰瘍、胃がん、消化性潰瘍などのおもな原因です。日本では胃がんの年間罹患者数はがんの中で2番目に多く、死因では3番目に位置づけられています。現時点でピロリ菌を除去するための治療法は確立されていますが、抗菌薬に対する耐性が強まっていることが懸念されています。
耐性菌の増加に伴い、菌そのものでなく食生活を始めとした別の視点からのピロリ菌感染への対応策が模索されてきており、この研究もそのひとつです。
マウスによる実験でくるみが消化器がんのリスクを下げるとされたのは、今回が初めてではありません。『Cancer Prevention Research and Nutrients』誌には、食生活にくるみを取り入れることで、腸内細菌のバランスが変わって大腸での腫瘍発生が抑制されたり、がん細胞の増殖を促す血管形成が阻害されて大腸がんの進行が抑制されるといった動物実験結果が2件掲載されています。
動物実験は基礎的な情報を取得するのに非常に有用であり、その後のヒトを対象とした研究の基礎としても利用されています。くるみに関するこの研究を始めとする既存のエビデンスを考慮すると、ピロリ菌感染による炎症などの症状を和らげる食生活をしっかりとした臨床試験で検証することのメリットは、非常に大きいと考えられます。
コメント
本研究に対し、順天堂大学大学院腸内フローラ講座の特任教授である大草敏史先生*は、以下のように評価しています。
Fat-1トランスジェニックマウスでn-3系多価不飽和脂肪酸がピロリ菌感染による慢性萎縮性胃炎を軽減して、胃腫瘍の発生を抑制することが知られています。 今回の研究では、同様に、ピロリ菌感染マウスに対して高塩分飼料を与えて萎縮性胃炎を発症させ、n-3系脂肪酸を豊富に含むクルミを100mg,と200mg/Kgと飼料に添加投与することで、ピロリ菌感染による萎縮性胃炎やビランが軽減するか検討したものです。
その結果は、クルミの添加投与で、粘膜の炎症マーカーが低減し、萎縮性胃炎が改善し、胃腫瘍形成が抑制されたという結果でした。
今回の研究は動物実験でありますが、クルミがピロリ菌感染胃炎を軽減することで、胃がん発生を予防できる可能性を示唆している大変興味深い研究である。
*大草敏史先生の専門は、腸内細菌学、消化器病学、ピロリ菌、炎症性腸疾患、大腸がんなどで、順天堂大学消化器内科(准教授)、東京慈恵会医科大学 附属柏病院 消化器・肝臓内科(教授)などを経て現職。
参考文献
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- 厚生労働省『令和元年(2019)人口動態統計』
- 厚生労働省『平成29年(2017)全国がん登録罹患数・率報告』