2021年02月09日
くるみなど植物由来のオメガ3脂肪酸を豊富に含む食生活で心筋梗塞後の死亡リスクが低下
キーワード: 心筋梗塞/狭心症 協会・賛助会員関連ニュース 食生活
(カリフォルニア くるみ協会)
この観察研究はカリフォルニア くるみ協会の協力により実施されたもので、同じくJACCに掲載された 「Revolution in Omega-3 Fatty Acid Research(オメガ3脂肪酸研究の革命的進歩)」2と題する付随論評においても支持されています。この研究は、心臓の冠動脈の1本が閉塞するような重度の心筋梗塞を発症した患者944人を対象に実施されました。この症状は、医学的にはST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)と呼ばれています。
心疾患は米国における主な死亡原因のひとつであり、40秒に1人が心筋梗塞を発症しています3。最初の発作から5年以内に二度目の発作に見舞われた46歳以上の心筋梗塞の経験者のうち、男性は36%、女性は47%が死亡しています4。
心疾患は米国における主な死亡原因のひとつであり、40秒に1人が心筋梗塞を発症しています3。最初の発作から5年以内に二度目の発作に見舞われた46歳以上の心筋梗塞の経験者のうち、男性は36%、女性は47%が死亡しています4。
日本では、厚生労働省の調査によると、心疾患(高血圧性のものを除く)の総患者数は173万2,000人と推計されています5。心疾患はがんに続き2番目に多い死亡原因で、全死亡数の15.0%を占めます6。心筋梗塞を発症した人では、発症後数年以内の再発リスクや死亡リスクが高いことも知られています7。
この研究の主任研究者である、ホスピタルデルマール医学研究所(IMIM)およびバルセロナベータ脳研究センターのアレイス・サラ=ヴィラ博士は、こう述べています。「現在でも多くの方が心筋梗塞を発症しており、患者さんの救命措置だけでなく発症後のQOLの維持についても研究が進んでいます。この研究の新しい点は、ALAとEPAが患者さんの長期的な予後の改善に対して補完的に作用する可能性に光をあてたことです。サーモンやくるみ、亜麻仁などの食品から海産物由来と植物由来のオメガ3脂肪酸を併せて摂取すると、より高い効果が期待できるのではないかと考えています。」
被験者の平均年齢は61歳で、78%が男性でした。入院時に採取した血液中のオメガ3脂肪酸の濃度を測定し、心筋梗塞を発症する前に摂取したオメガ3脂肪酸の量を正確に把握しました。そして、オメガ3脂肪酸の血中濃度の高さと退院後3年以内に合併症を起こすリスクの関係を観察しました。
特筆すべきは、ALAの血中濃度が高かった被験者は退院後3年間の死亡リスクが、死因を問わず低かったことです。また、EPAの血中濃度が高かった被験者では、心血管系の原因による死亡や再入院のリスクが低かったとの観察結果が出ています。
クルミは心臓に良い食品として知られており、コレステロール値、血圧、炎症、内皮機能や血管壁のプラーク形成などをバロメーターとした心血管系の健康とクルミの関連は、30年以上にわたる研究により裏付けられています。1また、オメガ3脂肪酸の一種であるALAを豊富に含むナッツはクルミだけであり、1オンス(28g)から2.5gのALA摂取が可能です。
期待の持てる観察結果が出ていますが、因果関係はまだ証明されていません。EPAとALAの両方を摂取することが実際の要因なのか、社会経済的因子や教育程度、薬物治療などの影響もあるのかどうかを結論づけるには、さらに研究を重ねる必要があります。なお、ドコサヘキサエン酸(DHAとして知られる、脂肪を多く含む魚に多いオメガ3脂肪酸の1種)は、この研究の対象とはなっていません。
コメント
本研究について、栄養学や動脈硬化がご専門の吉田 博先生*は、これまでのEPAに関する3つの研究を示し、本研究結果が革新的であると評価しています。日本の大規模介入臨床試験であるJELIS(二次予防対象者が約25%)8ではスタチンとの併用ながら、EPAが1.8g/日と多く使用され、心血管病リスクが有意に低下し、その効果は二次予防やハイリスク症例で顕著でした。また最近、EPAの1日量が4gの欧米の研究REDUCED-IT研究(二次予防対象者が約70%)が報告され、有意な心血管病リスクの低下がみられています9。しかしながら、EPA/DHAが1日4g使用されるSTRENGTH研究(二次予防対象者が約50%)では、心血管イベントリスクは低下せず、臨床試験は早期に終了しています10。 これらの試験では、オメガ3脂肪酸は主に二次予防に効果的で、EPAとDHAとの混合では有意な効果がみられていません。そのなかで本研究では、EPAとクルミに多く含まれるALAの双方を摂取することで、有意な二次予防効果が認められています。これはオメガ3脂肪酸の革新的な成果といえます。
*東京慈恵会医科大学附属柏病院 副院長・東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座 教授・大学院代謝栄養内科学 教授、一般社団法人日本未病学会理事長)