2017年09月08日
精子の健康改善にくるみが有効の可能性 酸化ストレス抑えて運動性など向上
キーワード: 食生活
ヒトでは1日75gに相当する、くるみが豊富な餌でマウスを9〜11週間飼育
この研究では、野生型マウス(遺伝的な変異が特にない通常のマウス)を2つのグループに分け、一方にはくるみを豊富に含む餌(以下、くるみ食と省略)を与え、もう一方には通常の餌を与えて飼育した。また、遺伝子変異があり精子の活性化が起こりにくいPMCA4欠損マウスでも同様の検討をした。なお、くるみ食はカロリーの19.6%をくるみで占めており、ヒトに換算すると1日あたり75gのくるみ摂取に相当する。 9〜11週間の飼育期間後に、精子の運動性や形態などを評価して、くるみ食の影響を検討した。精子の運動性については、非受精能状態(卵子に到達する前の受精能未獲得で、運動性が高い状態)と、受精能状態(卵子に到達する過程で受精能を獲得し、運動性はやや低下した状態)のそれぞれで検討した。くるみ食群で精子の運動性と形態が有意に改善
結果をみると、まず、野生型マウスについては、くるみ食群は通常食群に比べて、受精能非獲得状態と受精能獲得状態の双方で、有意に精子の運動性(精子運動率)が向上していた(ともにp<0.05.図1)。一方、PMCA4欠損マウスでは、精子運動率に有意な変化は認められなかった。 次に精子の形態をみると、野生型マウスではくるみ食群で通常食群に比し、正常形態の精子が占める割合(正常形態率)が有意に高かった(p<0.01.図2)。また、PMCA4欠損マウスは野生型マウスに比べて正常形態率が有意に低いことが確認されたが(p<0.001)、そのような背景のもとにおいても、くるみ食によって正常形態率の有意な改善を認めた(p<0.01)。くるみが酸化ストレスを抑制して精子の質を改善
くるみが精子の精子運動率や正常形態率を向上させる理由として、くるみが豊富に含有している多価不飽和脂肪酸によって酸化ストレスが軽減され、精子保護的に働くという機序が考えられる。 この経路の確認のため精子の脂質過酸化レベルを評価したところ、通常食に比べくるみ食では、脂質過酸化レベルが野生型マウスで約5割、PMCA4欠損マウスでは約4割まで有意に抑制されていた(ともにp<0.05)。これにより、くるみ食が酸化ストレスを抑制することで精子の質を改善することが推察される。ヒトでの検討と一致する結論
くるみの精子に及ぼす影響は、動物実験としては恐らく今回の報告が初めてのものだが、ヒトを対象とする研究は既に報告がある。 21〜35歳の男性117人を2群に分け、一方の群のみに1日75gのくるみを摂取しもらったところ、精子の活力、運動性、形態がくるみ摂取群のほうが良好であり、有意な群間差があったという。今回のマウスでの研究結果は、ヒトにおけるこの研究結果を支持するもので、くるみの精子に対する作用がより強固に証明されたと言えるだろう。くるみ食で体重や血清脂質は変化しない
ところで、「くるみは脂肪分が豊富だから、食べ続けると太ったり血清質が高くなったりするのではないか」と思われるかもしれない。しかし本研究では、くるみ食群と通常食群のマウスの体重の推移は一致している。また前述のヒトでの検討でも、血清脂質値に群間差がなかったことが報告されている。 総摂取カロリーを変えず、その一部をくるみに置き換えるという方法において、体重や血清脂質へマイナスの影響が生じる可能性は、今のところ否定されていると言える。不妊症の約半数は男性にも原因
現在、世界中の夫婦の1割近くが不妊症であると言われている。 不妊症というと、その原因の多くは女性の側にあると思われがちだが、実際には男性の側に原因があるケースが4分の1ほどを占め、かつ、男女の両方に原因があるケースも約4分の1を占めると考えられている。つまり、不妊症の約半数は、男性の側にも原因が存在するということだ。 ひょっとすると、このような男性不妊で悩む多くの夫婦に、くるみが解決の糸口を与えてくれることもあるかもしれない。 参考情報: ・Effectiveness of a walnut-enriched diet on murine sperm: involvement of reduced peroxidative damage〔Heliyon 3(2):e00250,2017〕 ・Walnuts improve semen quality in men consuming a Western-style diet: randomized control dietary intervention trial〔Biol Reprod 87(4):101,2012〕
[mhlab]