日本生活習慣病予防協会 JPALD
生活習慣病とその予防
主な生活習慣病
ニュース

精子の健康改善にくるみが有効の可能性 酸化ストレス抑えて運動性など向上

キーワード: 食生活

 くるみが精子の質を改善するという研究結果が発表された。雄マウスにくるみを豊富に含む餌を与えたところ、通常の餌を与えたマウスよりも精子の運動性や形態が向上したという。既にヒトを対象とした研究でも同様の報告がなされており、今回の結果はそれを支持するもの。

 不妊症の約半数は、男性が原因または男性・女性双方の原因によるもので占めると言われるが、そんなカップルが抱える悩みの一部を、くるみが解決してくれるのだろうか。本報告の研究者は、「くるみに含まれるどの成分が良いのかなど、さらなる研究が必要だが、くるみが精子の健康に役立つ可能性が示唆される」と述べている。

ヒトでは1日75gに相当する、くるみが豊富な餌でマウスを9〜11週間飼育

 この研究では、野生型マウス(遺伝的な変異が特にない通常のマウス)を2つのグループに分け、一方にはくるみを豊富に含む餌(以下、くるみ食と省略)を与え、もう一方には通常の餌を与えて飼育した。また、遺伝子変異があり精子の活性化が起こりにくいPMCA4欠損マウスでも同様の検討をした。なお、くるみ食はカロリーの19.6%をくるみで占めており、ヒトに換算すると1日あたり75gのくるみ摂取に相当する。

 9〜11週間の飼育期間後に、精子の運動性や形態などを評価して、くるみ食の影響を検討した。精子の運動性については、非受精能状態(卵子に到達する前の受精能未獲得で、運動性が高い状態)と、受精能状態(卵子に到達する過程で受精能を獲得し、運動性はやや低下した状態)のそれぞれで検討した。

くるみ食群で精子の運動性と形態が有意に改善

 結果をみると、まず、野生型マウスについては、くるみ食群は通常食群に比べて、受精能非獲得状態と受精能獲得状態の双方で、有意に精子の運動性(精子運動率)が向上していた(ともにp<0.05.図1)。一方、PMCA4欠損マウスでは、精子運動率に有意な変化は認められなかった。

 次に精子の形態をみると、野生型マウスではくるみ食群で通常食群に比し、正常形態の精子が占める割合(正常形態率)が有意に高かった(p<0.01.図2)。また、PMCA4欠損マウスは野生型マウスに比べて正常形態率が有意に低いことが確認されたが(p<0.001)、そのような背景のもとにおいても、くるみ食によって正常形態率の有意な改善を認めた(p<0.01)。

くるみが酸化ストレスを抑制して精子の質を改善

 くるみが精子の精子運動率や正常形態率を向上させる理由として、くるみが豊富に含有している多価不飽和脂肪酸によって酸化ストレスが軽減され、精子保護的に働くという機序が考えられる。

 この経路の確認のため精子の脂質過酸化レベルを評価したところ、通常食に比べくるみ食では、脂質過酸化レベルが野生型マウスで約5割、PMCA4欠損マウスでは約4割まで有意に抑制されていた(ともにp<0.05)。これにより、くるみ食が酸化ストレスを抑制することで精子の質を改善することが推察される。

ヒトでの検討と一致する結論

 くるみの精子に及ぼす影響は、動物実験としては恐らく今回の報告が初めてのものだが、ヒトを対象とする研究は既に報告がある。

 21〜35歳の男性117人を2群に分け、一方の群のみに1日75gのくるみを摂取しもらったところ、精子の活力、運動性、形態がくるみ摂取群のほうが良好であり、有意な群間差があったという。今回のマウスでの研究結果は、ヒトにおけるこの研究結果を支持するもので、くるみの精子に対する作用がより強固に証明されたと言えるだろう。

くるみ食で体重や血清脂質は変化しない

 ところで、「くるみは脂肪分が豊富だから、食べ続けると太ったり血清質が高くなったりするのではないか」と思われるかもしれない。しかし本研究では、くるみ食群と通常食群のマウスの体重の推移は一致している。また前述のヒトでの検討でも、血清脂質値に群間差がなかったことが報告されている。

 総摂取カロリーを変えず、その一部をくるみに置き換えるという方法において、体重や血清脂質へマイナスの影響が生じる可能性は、今のところ否定されていると言える。

不妊症の約半数は男性にも原因

 現在、世界中の夫婦の1割近くが不妊症であると言われている。

 不妊症というと、その原因の多くは女性の側にあると思われがちだが、実際には男性の側に原因があるケースが4分の1ほどを占め、かつ、男女の両方に原因があるケースも約4分の1を占めると考えられている。つまり、不妊症の約半数は、男性の側にも原因が存在するということだ。

 ひょっとすると、このような男性不妊で悩む多くの夫婦に、くるみが解決の糸口を与えてくれることもあるかもしれない。

参考情報:
Effectiveness of a walnut-enriched diet on murine sperm: involvement of reduced peroxidative damage〔Heliyon 3(2):e00250,2017〕
Walnuts improve semen quality in men consuming a Western-style diet: randomized control dietary intervention trial〔Biol Reprod 87(4):101,2012〕
[mhlab]

関連トピック

生活習慣 ▶ 食生活

2023年12月20日
健康寿命延伸に向け、各世代で解決すべき課題と対策とは:中高年編
―ILSI Japan 公開セミナー第3回のご案内ー
2023年11月20日
令和の日本人の多くが罹患していると思われる 新・国民病のTOP3は、「機能性ディスペプシア」、「MASLD」、「うつ病」 2024年以降、胃の不調がさらに増加する可能性も示唆される―医師331人への調査結果―
2023年11月02日
子どもたちの食事の課題を嚥下・歯科、給食・食育の視点で考える
~ ILSI Japan公開セミナー第2回 レポート~
2023年09月22日
魚食で認知症のリスク低下も ~重要な中年期の食生活~
2023年07月06日
医師を対象とした4年間にわたる高尿酸血症・痛風患者の実態調査ー医師が注目するのは痛風よりも合併症のリスク!「夏」「お酒」「脱水」にはとくに注意
~患者の食事・飲酒習慣の改善が必須の結果に~
市民公開講演会参加者募集中!
明治PA3
新着ニュース

トピックス&オピニオン

Dr.純子のメディカルサロン こころがきれいになる医学
保健指導リソースガイド
国際糖尿病支援基金
糖尿病ネットワーク 患者さん・医療スタッフのための糖尿病の総合情報サイト
糖尿病リソースガイド 医師・医療スタッフ向け糖尿病関連製品の情報サイト
日本健康運動研究所 健康づくりに役立つ情報満載。運動理論から基礎、応用を詳細に解説
日本くすり教育研究所 小・中学校で「くすり教育」を担う指導者をサポート