2013年06月24日
「主治医に医療費の相談も」糖尿病治療中の森永卓郎氏、語る
キーワード: 糖尿病
後戻りできなくなる
増加を続ける日本の糖尿病人口と併行して、糖尿病合併症を発症する患者が増えている。通院していても血糖コントロール不良で病状が進行する例もあるが、患者全体の4割を占める未治療・治療中断者の治療の遅れが原因となっていることも大きな問題だ。講演で弘世氏は、適切な治療を早期から受けることの重要性について解説。体調がいいから大丈夫と、合併症が現れるまで放っておく“糖尿病放置病”の人が多いと指摘した。「例えば、糖尿病性腎症は進行ステージ4期のうち、3期まではほとんど症状を感じない。しかし3期は “ポイント オブ ノー リターン”とも言われ、すでに後戻りできない状態。4期になると多くの人が透析へ進行し、透析になれば週3回の通院を余儀なくされる。糖尿病は常に細胞が飢餓状態になるのでお腹がすき、眠くなりやすいので、快食・快眠と勘違いする人もいる。糖尿病と診断された人、境界型と言われた人も自覚症状をあてにしていると危険です」と強調した。
講演では、糖尿病治療と医療費の現状についての解説も行われた。糖尿病になるとほぼ一生涯、医療費を支払い続けることになる。インスリン療法患者では年間自己負担額が20万円にも上る。糖尿病の医療費を調整することは不可能なのだろうか? これについて弘世氏は、「とにかく基本は血糖コントロールに努めること」と語る。食事と運動だけならあまりお金もかからないが、ある程度病状が進めばそうはいかない。「薬物療法になったらなおさら、血糖コントロールを安定させることが重要です。糖尿病は高血糖が続く病気。血糖コントロールが悪く、長期間、高血糖にさらされていると合併症が発症します。そうすれば、医療費が一気に上がってしまいます」と、弘世氏は熊本県阿蘇市が出した糖尿病の医療費概算(糖尿病合併症による1人あたりの医療費)を紹介。概算によれば、腎症や神経障害を併発すると通常の糖尿病治療の約5倍、透析になれば20倍になるという。透析は高額療養費制度の助成で個人負担はなくなるが、年間500万円もの費用を国が負担することになる。医療費は患者自身だけでなく、保険者、ひいては税金を支払う国民全体の問題でもあるのだ。
さらに弘世氏は、薬物療法(メトホルミン)よりも生活様式への介入が糖尿病発症抑制に最も効果的※1)であることは知られているが、実際は食事や運動療法での生活習慣への介入は薬物療法よりもコストがかかる※2)のが実情で、コストパフォーマンスの面では薬物療法を適切に行っていくことが経済的かつ効果的であると述べた。
必ずしも最後の一手ではない
最後に弘世氏は、「2型糖尿病患者がインスリンと言われたら、治療は最終段階、一度始めたら止めることはできないとイメージする人が昔から多い。でも、インスリン療法を適切に行い膵β細胞が元気を取り戻せば、飲み薬に戻すことは可能です。現状では、進行してから導入する人が多いので離脱率じたいは高くないけれど、早いうちに導入していれば離脱の可能性は高くなります。インスリン療法は早く始めれば始めるほど安全で効果を発揮する」と早期導入の有用性を訴えた。
※1) DPP(The Diabetes Prevention Program)
The New England Journal of Medicine. 2002; 346: 393-403.
※2) Diabetes Care 2012 April; 35(4): 723-730.
トークセッションを開催
−−現在受けている糖尿病治療には満足されていると答えた人が多いですが、医療費に関しては8割もの患者さんが不満を持っていることがわかりました。
弘世:インスリンの種類、打ち方、回数、単位などにもよりますが、自己負担額は毎月5千〜1万5千円くらいの方が多いのではと思います。
森永:糖尿病患者さんにとって医療費は、支払い続けなくてはならない“固定費”です。ここで嘘をついても仕方ありませんので正直言いますが、私はそこそこ収入があるので毎月数万円の医療費はそれほど痛くはないですけれども、普通のサラリーマンで1万円〜1万5千円が毎月出て行くとなると、生活が圧迫されてしまうのは当たり前です。その結果、自分の趣味や生活を我慢しなければならないとなると、人生の豊かさを削いでしまうということにつながると思うんですね。
弘世:私たち医者に「医療費が払えない」と言ってくる患者さんはほとんどいません。理由不明のまま受診をやめてしまう人の中には、医療費の問題を抱えていた人もいたのかもしれない。
森永:弘世先生がさきほどお示しされたように、経済全体を考えてみると合併症を発症すると桁違いに医療費が増えます。それは本人の負担だけでなく、7割は保険でまかなっているわけですから、国民全体の負担になるわけです。だから“患者さんが払える範囲内の医療費”というものも考えていかないと、国の経済全体がおかしくなってしまうと思うんです。
弘世:今回の調査を拝見して、私も反省しなくてはとつくづく思いました。治療のなかでもインスリン療法になると、使用する薬剤などは「先生にすべて任せます」と仰る患者さんが多いのが実情なのですが、だからといって関心がないわけではない。もっと説明して、納得していただく努力をしなくてはなりませんね。
−−インスリン療法を開始した際、使用するインスリン製剤はどのように決めたか?という質問に、9割の患者さんが主治医の勧める製剤を選択したと回答しています。また、インスリン製剤には価格差があることを約7割の患者さんがご存知なかったそうです。
森永:選択肢があると知っていたとしても、遠慮して言わないのが普通なのではないでしょうか。「もっと安い方法はないんですか?」なんて言えない人の方が圧倒的に多いと思います。私は全然平気なんですけどね(笑)。人に、“セコい”“しぶちん”“どケチ”としょっちゅう言われていて、有吉君には“ケチ狸”とあだ名をつけられたほど。医者には何かあるたびに「もっと安いのないんですか?」と言ってしまう。もう口癖ですね。でも主治医は、「いま稼いでるんだから、これぐらいちゃんと払いましょうよ」と諭されます。
弘世:医療費は交渉したり値切ったりするものではない、というイメージが強くありますからね(笑)。
森永:だいたい、インスリン製剤の値段なんて患者さんは普通知らないでしょ。病院の薬には値段が貼ってあるわけじゃないのだから。そういう意味では、この調査で“価格差を知っている”と答えた3分の1の人はすごいと思う。
−−現在、使用しているインスリン製剤と同等の効果で、より安価なものがあれば9割が“使用したい”と答えています。
弘世:“質が落ちない”というのが重要だと思います。つまり、健康のために質を値切ることはしたくない人は多い。だから、もし質が担保されているのであれば、という条件ならこういう結果になりますよね。
森永:逆に12.3%の“使用したいと思わない”は、どういう人なんだろうと思いました。高くてもいいということですかね?
弘世:いま、ジェネリック医薬品が国の政策のもとで広く知られるようになりました。ですが、「ジェネリックはやめてください」という患者さんはけっこういるんです。つまりブランドに信頼性を求めている人もいるということだと私は思っています。インスリン製剤にはジェネリックはありませんが、「インスリンをジェネリックにしてください」と仰る患者さんがたまにいるんですね。そういう患者さんは、医療費を気にされているのだとわかりますから、価格が違う薬剤もありますよという話をします。人によって使用量も違いますが、年間数千円程度ですが差がでてくる薬剤もありますので。
森永:世の中の大部分の人がそんなに年収あるわけじゃないですからね。年収200万切っている人なんかでは、医療費は生活にもろにひびいてしてしまうと思います。
弘世:「医療費をもっと安くできないか」とほとんど言われることがないのは、患者さんは薬剤の価格差なんて知らないからというのもある。知っていたとしても患者さんの立場としては、主治医の勧めを断ってはいけないと考えてしまう。ですから、こちらからお勧めしてあげない限り、現状では難しいんだろうと感じます。
−−では、患者さんはどうすればよいのでしょうか。
弘世:患者さんは病院だけではなく、毎日の生活が本番です。治療は主治医に丸投げにせず、能動的に取り組んでいただけたらと考えます。いまは、患者さんでも病気のこと、薬のことなどいくらでも調べようがありますから。そしてわからないことや要望があれば、主治医や医療スタッフにどんどん聞いてほしい。その積み重ねが血糖コントロール改善、合併症抑制に必ずつながっていくと思います。
森永:今日の結論は“主治医に正直であれ”ということだと思うんです。患者はいろいろと隠そうとするものなんですよ。だめだと言われていても大食いしたり、お酒飲んだり。そして検査でバレて怒られたり・・・。お金のことも正直に「この額を出し続けるのはきついので何とかなりませんか?」と主治医へ投げかけてみるのが、まず第一歩だと私は思います。遠慮せず、恥ずかしがらず。皆、似たり寄ったりの生活なんですから。決してみっともないことではありません。言ってみたら意外と簡単で、心も懐も楽になると思うんです。
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