禁煙指導の専門家から
『紫煙の怖さと生活習慣病予防』
中央内科クリニック院長 村松 弘康 先生
3. 喫煙と生活習慣病との関わり合い
1) 喫煙と心血管病変
喫煙は有害物資を吸い込む行為
喫煙が心血管病変のリスクファクターであることは、古くから知られている事実です。たばこを吸うと、まずニコチン自体が強力な血管収縮作用を持つため、血管内腔が狭窄し血圧が上昇、血流は低下します。また、煙に含まれる一酸化炭素は酸素の200〜250倍、ヘモグロビンと結合しやすいため、全身組織の酸素欠乏状態を促し、二次性の多血症を来たすことにより血液粘調度が増大(いわゆるドロドロ血)。血栓ができやすい状態になります。活性酸素も血管内皮を障害するため、さらに血栓や塞栓症の発症を促します。一方、活性酸素により酸化変性を来たした脂質は、プラーク形成を促進して動脈硬化も進行してしまいます。実際、喫煙による心筋梗塞死に対する相対リスクは、血圧やコレステロール値をも上回るのです。
脳梗塞死に対しても同様です。脳梗塞まで至らなくても、微小循環が障害されることで認知症が増加することも知られています。さらに受動喫煙の被害から、喫煙者と同居しているだけで、認知症の発症率は(非喫煙者と同居している人に比べ)約30%増加するとのデータもあります。
2) 喫煙と糖尿病・脂質異常症
喫煙者ではインスリン抵抗性が認められ、血糖値が下がりにくいという事実は、以前から知られていましたが、その機序はこれまで未解明な部分が多くありました。しかし最近になって、肥満・内臓脂肪とメタボリックシンドロームの研究が進むにつれ、喫煙と糖尿病の因果関係が徐々に解明されつつあります。
メタボリックシンドローム研究で注目されているアディポネクチンは、脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンの一種で、インスリンの作用を助けて血糖値を下げる役割を果たしています。内臓脂肪が増加して脂肪細胞が肥大化すると、アディポネクチンの分泌は減少してしまうので、いわゆる“メタボ”の状態は要注意とされています。
実は、喫煙でも、このアディポネクチンに影響を与えます。喫煙をすると数時間でこのアディポネクチンが減少し始め、6〜12時間は低値のままになるという研究結果も示されています。また、喫煙者と非喫煙者の間では、アディポネクチンの血中濃度に有意差があることや、試験管内で脂肪細胞にニコチンを暴露すると、ニコチンの量が多いほどアディポネクチンの分泌が低下することも確認されています。さらには、喫煙が糖尿病の新規発症を増加させることを確認したデータや、ニコチンが脂肪細胞からの遊離脂肪酸の分泌を促進する事実もあり、タバコが糖・脂質代謝に悪影響を及ぼすことは、もはや疑う余地はありません。
3) 喫煙とメタボリックシンドローム
これまで述べてきたように、喫煙は?血圧、?糖代謝、?脂質代謝の全てに悪影響を及ぼすことから、喫煙は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の合併を増加させることも明らかです。また、受動喫煙により、周囲の非喫煙者もメタボリックシンドロームの合併率を上昇させます。すなわち、“メタボ対策”としても禁煙は欠かせないのです。
喫煙はメタボリックシンドロームを増やす
※メタボリックシンドロームの定義はNCEP-ATP?による。出典:Ishizaka N, et al:Atherosclerosis 181(2):381, 2005