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2017年2月17日

【市民公開講演会レポート】
がん医療の最新情報 「低侵襲」「個別化」で患者にやさしいがん治療

全国生活習慣病予防月間 2017 市民公開講演会
 がん医療は日々進歩を続けている。目指しているのは、より患者の負担の少ない「低侵襲」の治療と、「個別化」ケアの実現だ。がん医療の最新の成果を、長らく日本のがん医療を牽引してきた北島政樹氏が講演した。
死亡者数の多い「主要五大がん」
 日本では、2人に1人はがんを発症し、3人に1人はがんで死亡するとされている。がんは30年以上にわたって日本人の死因の1位となっており、2016年には約37万4,000人ががんで亡くなっている。

 がんの中でも「肺がん」「大腸がん」「乳がん」「胃がん」「子宮がん」は、死亡者数が多く、がん検診の効果が科学的に証明されており、「主要五大がん」と言われている。

 2016年の死亡数の1位は肺がんで約7万7,300人が亡くなっており、喫煙との関係が深いことが証明されている。大腸がんによる死者は約5万1,600人で、胃がんを抜いて第2位になっている。食生活の欧米化や運動不足、飲酒などが関連しているとされる。

 胃がんでも約4万8,500人が亡くなっており、原因として重要視されているのが、胃に住み着くピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)だ。ピロリ菌の感染が分かり、内視鏡でピロリ感染胃炎と診断されれば、保険適用で治療を受けられる。ピロリ菌の除菌は、多くの場合で胃がんになる可能性を大きく下げる。

 乳がんでは約1万4,000人が亡くなっているが、検診などで早期発見すれば比較的治療しやすいがんだ。子宮がんでは、約6,500人が亡くなっており、特に若い世代で子宮頸がんが増えている。
がんを防ぐための生活習慣「一無、二少、三多」
 日本のがんの死亡率を下げていくためには、治療の進歩、検診の拡充、生活習慣の改善が3本の柱とされるが、日本のがん検診受診率は約4割と、欧米の7~8割に比べて低く、生活習慣の改善への意識もまだ低いとされている。

 生活習慣の改善について、「一無、二少、三多」が、「現代の日本人にとって、実践しやすいやり方で効果を得られる健康習慣であり、がんの予防・改善効果も期待できる」と、北島政樹・国際医療福祉大学名誉学長は言う。

 「一無、二少、三多」は池田義雄・日本生活習慣病予防協会理事長が30年前から提唱してきた。「一無」では禁煙、「二少」では食事量や飲酒を少なめの腹八分にし、「三多」では激しい運動でなくてもウォーキングや軽い筋トレなどで身体をできるだけ動かし(多動)、休養をとり、個人差があるにしても睡眠を十分にとり(多休)、多くの人や物と接し生活を創造的にする(多接)ことを勧めている。
体への負担が少ない「腹腔鏡手術」が大きく進歩
 北島政樹氏は、国内きってのがんの名医として知られ、確かな技術をもつ外科医だ。腹腔鏡とロボット手術の第一人者であり、がん治療の進歩を切り開いてきた。10年前に、当時プロ野球・福岡ソフトバンクホークス監督だった王貞治氏の主治医として胃がんの手術を執刀し、腹腔鏡による開腹なしでの胃の全摘出を成功させた。

 胃がんを例にとると、がんが胃やその周辺にとどまっている場合、がんを取り除く治療が行われる。胃がんを取り除く治療には、口から内視鏡を入れて胃壁の一部を切除する「内視鏡治療」と、お腹に小さなあなを数ヵ所あけ、そこから手術器具やカメラを入れてモニターを見ながら行う「腹腔鏡手術」、お腹を開いて胃や周辺を広く切除する「開腹手術」がある。

 このうち内視鏡手術は転移のない早期のがんの場合に行われ、進行している場合には、腹腔鏡手術か開腹手術が行われる。

 腹腔鏡手術は患者の体への負担が少ない治療法として急速に普及している。傷や出血を最小限に抑え、患者ごとにきめ細かいケアができる腹腔鏡手術は、がん医療の「低侵襲」「個別化」の先陣を切っている。日本内視鏡外科学会ホームページでは、技術認定取得者一覧に認定医のリストが公開されている。
ロボット手術でより精密で繊細な治療が可能に
 この内視鏡外科手術の発展を支えたのが、工学技術の進歩と医療への応用だ。最近では、ロボットを使った手術にも注目が集まっている。

 ロボット手術は、ロボットのアームによって手術を行う術式で、患者への体の負担が少ない低侵襲の術式である腹腔鏡手術より、さらに精密かつ繊細な動きが可能になる。

 ロボット手術では、医師は、離れた場所で3D画像を見ながらアームを操る。アームには関節があるため自在に曲げることができ、医師の手の震えを除去できる手ぶれ補正機能も付いている。ミリ単位の操作をいとも簡単にこなすことができ、手術の精度は格段に高まっている。

 腹腔鏡手術で使う従来のロボットの鉗子では、医師に触覚が伝わらない。そこで、北島氏らは医師の手元で触覚を再現する技術の開発にも乗り出した。ゴムを持てばゴムの、金属を持てば金属の手触りを感じられる。

 この触覚を遠隔地に転送する実験も行った。慶應大学理工学部に鉗子の先端を置き、医学部にいる医師まで約20km、世界で初めて触覚を送ることに成功した。このシステムを使えば、病院から離島にいる患者の手術も可能になるという。
必要な部位のみをみつけ、低侵襲の腹腔鏡手術で切除
 がんができた場所から、身体の他の部分にがん細胞が拡がることを「転移」と言う。転移は大きく分けて、がん細胞が原発巣から直接周囲に浸潤していくもの、血液やリンパ液にのって遠くの臓器に転移していくものがある。

 その中でリンパ管の中をリンパ液にのって流れ出たがん細胞が、リンパ節の網にひっかかり、そこで増殖をしてしまった状態を「リンパ節転移」と言う。

 がん細胞はリンパの流れにそって最初に到達した、がんにもっとも近い「センチネルリンパ節」(センチネルには見張り番という意味がある)を通り全身に広がる性質があると考えられている。

 がんが達していなければその先のリンパ節の切除は不要になる。センチネルリンパ節を調べてリンパ節の切除範囲を決めるのが「センチネルリンパ節生検」だ。

 切除する部分のみを検査でみつけ、低侵襲の腹腔鏡手術で取り除く。最新のがん手術の方法は、必要とされる場合にのみにリンパ節を切除する方向に変わってきている。乳がんなどではすでに医療の現場で導入されている。

 現在は国際医療福祉大学で、将来を担う人材を育成している北島氏。「以前は体の負担の大きい、大規模な手術をこなせる医師が一流と思われていました。現在は、患者さん一人ひとりに合わせた"低侵襲"で"個別化"した治療ががん治療の中心になってきました。患者さんの期待により多く応えられる医療を目指しています」と、北島氏は言う。
全国生活習慣病予防月間 2017 市民公開講演会
「禁煙とがん治療」

[日時]2017年2月8日 [場所]日比谷コンベンションホール
[主催]一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
[共催]公益財団法人がん集学的治療研究財団
    認定NPO法人 セルフメディケーション推進協議会
全国生活習慣病予防月間2017(一般社団法人 日本生活習慣病予防協会)
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会

【市民公開講演会レポート】
日本の喫煙対策は「最低レベル」 たばこを断つために必要な知識

全国生活習慣病予防月間 2017 市民公開講演会
 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、たばこ対策が課題になっている。日本の「喫煙対策」をリードしている村松弘康・中央内科クリニック院長が、禁煙の重要さについて講演した。日本の喫煙対策は現状では、世界で「最低レベル」だという。
日本の喫煙対策は「最低レベル」
 2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。国際オリンピック委員会(IOC)は世界保健機関(WHO)と共同で「たばこのないオリンピック」を掲げており、過去の開催地ではいずれも受動喫煙防止策が講じられてきた。レストランやバーなども含めた屋内は全面禁煙と決められ、違反すると罰則もある。

 これに対し、2020年の開催地である東京では、かねてから必要性が指摘されている受動喫煙防止条例の制定が遅々として進んでいない。日本の受動喫煙対策は、世界でも「最低レベル」とされている。

 世界では、すでに50ヵ国以上で、公共の屋内を全面禁煙とする法律が作られている。中国も北京では厳しい禁煙条例が作られている。この「公共の屋内」とは公的施設だけではなくレストランや居酒屋など多数の人が利用する全ての場所のことで、喫煙室などの分煙では無く、完全に禁煙とするという意味だ。
たばこの害は科学的に疑う余地がない
 喫煙がもたらす医療費や健康管理費、生産性の低下などの経済的な損失は、2012年には年間に約163兆円(1兆4,360億ドル)に達すると、世界保健機関(WHO)と米国がん協会(ACS)の専門家グループが発表した。また喫煙が直接的な原因で死亡する人は年間210万人に上り、たばこの影響で死亡する人は1,800万人に上るという。

 2005年に日本も批准している「たばこ規制枠組条約」(FCTC)が発効した。この条約では、各国に喫煙による健康被害の防止対策を求めている。内容は、たばこ税・価格の引き上げ、受動喫煙の防止、たばこ広告・販売促進の禁止、たばこの包装の警告表示の強化まで多岐にわたっている。

 こうした条約ができた背景には、研究が進んで、たばこの害がもはや科学的に疑う余地がなくなってきたことがある。
受動喫煙が原因で年間1万5,000人が死亡
 たばことの因果関係が確実とされている病気は、主なものでも脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、高血圧、呼吸器疾患、歯周病、さまざまな部位のがんなどがある。妊婦の喫煙と乳幼児突然死との関連も深い。

 特に肺がんについては深刻で、喫煙者は非喫煙者に比べて肺がんで死亡するリスクが男性で4.5倍、女性で2.3倍に高まる。また、男性の場合、喉頭がんで死亡するリスクは喫煙しない人に比べて32.5倍に上昇する。

 たばこを吸うことで、血液をドロドロにする血中成分の増加や、善玉のHDLコレステロールの減少により動脈硬化が促進される。喫煙は血管内プラークの形成も促す。男性では喫煙により虚血性心疾患のリスクは約3倍に高まり、喫煙本数が増えるほどリスクが増加する。

 喫煙はCOPD(肺気腫、慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器系の疾患も引き起こす。COPDが進行すると、ひどい息切れによって生活が不自由になり、酸素療法が必要になる。

 さらに、受動喫煙と病気の因果関係についても近年の研究で明らかになっている。国立がん研究センターが、受動喫煙だけでも肺がんのリスクが増えることが確実になったと発表した。日本では受動喫煙が原因で年間1万5,000人が死亡しているという。
何度も失敗した禁煙を今度こそ成功させる
 これらの健康障害を予防するために求められているのは「禁煙」だ。しかし、禁煙しようと思っても、自分ひとりではなかなかやめられない、という人も多い。

 現在は喫煙をやめられない人は医療機関で禁煙治療を受けることができる。たばこをやめると、まず血圧値や呼気中の一酸化炭素濃度などが回復しはじめる。数ヵ月後には心臓や肺機能も改善する。禁煙10年後には肺がんによる死亡率が喫煙者のおよそ半分になり、15年後には冠動脈疾患のリスクが、たばこを吸わなかった人のレベルまで近づく。

 「ニコチン依存症」は、血中のニコチン濃度がある一定以下になると不快感を覚え、喫煙を繰り返してしまう疾患だ。たばこを吸うと、ニコチンが急速に肺から吸収され数秒で脳内に達し、脳内で働く神経伝達物質の代わりに刺激を与え、快感を与える。これを繰り返すうちに、ニコチンがないとイライラや落ち着かないなどのニコチン切れ症状(禁断症状)があらわれるようになる。

 「たばこをやめられないのは"意志"が弱いからではなくて、ニコチン依存症のためです。自力で禁煙するより、禁煙補助薬などを使った治療を受ける方が成功率が3~4倍も高いとされています。ぜひ禁煙外来などを受診してほしい」と、村松氏は言う。
電子たばこにも害がある 完全な禁煙が望ましい
 たばこ対策において急浮上しているもうひとつの問題は、「アイコス」「プルームテック」などの、いわゆる加熱式の電子たばこが世界に先駆けて日本で発売され、急速に市場を拡大させていることだ。たばこ会社などは「有害物質が大幅に削減され、においもほとんどない。健康障害も少ない」として販促活動を行っているが、これには誤解がある。

 加熱式たばこの多くはニコチン摂取量が不明で、吸い続けると「ニコチン依存症」がさらに進行してしまうおそれがある。また、加熱式たばこの多くはたばこ葉を用いており、主流煙中に発がん物質が検出されており、受動喫煙による健康被害も懸念される。

 「電子たばこは決して安全と言えるものではなく、少なくとも公共の場所で例外として使用できるものではありません。望ましいのは完全な禁煙です」と、村松氏は指摘している。

全国生活習慣病予防月間2017(一般社団法人 日本生活習慣病予防協会)
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会

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